☆短編集☆

□ナキムシ
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すぐ近くにあった下着を取り、レジに持っていった。

「…525円…です…」

おかしい…さっきから店員にジロジロみられる…

そこで俺は下着の存在に気づいた。

「あ!いや…ちがくて…その…妹!妹のなんです!まったく人使いの荒い妹なんですよ…」

苦し紛れについた嘘も通用せず、完全に変態としか見られていない。

俺はここのスーパーは二度と利用出来ないと思いながら家に帰った。

「ただいま〜」

家に着き、玄関で靴を脱いでいると

ドン

と鈍い音がし、俺の腹部に衝撃がはしる。

「おおっ」

びっくりして腹部をみるとエルシアが抱きついていた

ほぼ裸で…

タオルを巻いていたから良かったものの…

「おまっ、その格好…」

「…たの?」

「え?」

「どこ行ってたの?」

涙目で俺のことを見てきたから怒ろうと思ってたのになにも言えなくなった。

「…お前の下着買ってたんだよ」

「…したぎ…?」

「そう、パンツだよ」

「…パンツ…?」

「なんだよ…名前知らないのか?これだよ」

袋から買ってきた下着を取り出す。

エルシアは何これ?と言うかのような表情で首を傾げている。

「履くだろ?」

「?」
履かないのか?外国人って下着を履かないのか?やべぇ〜…

「とりあえず下に履くんだよ。履いとけ」

俺はこうふ…高ぶる気持ちを抑え、冷静を装い、そう言った。

エルシアはなにも疑わずそれを履き、俺が貸したシャツをきせた。

ぐ〜

大きな音がしてエルシアが恥ずかしそうに顔を赤らめる。

「腹減ったの?なんか食べる?」

コクリと頷く。

冷蔵庫を開けると何もなかった。下着と一緒に買っとけば良かったと思いながらも俺は商店街に行くことにした。

エルシアについて行くか聞くとうんと大きな返事をしたので連れて行くことにした。

商店街に行くと顔馴染みの肉屋の夫婦が話しかけてきた。

「崚汰くんじゃない!あらこの子は?」

「ああ…エルシアっていうんだけど」

「エルシアちゃんね!外国人?可愛いわねぇ」

「お!崚汰じゃねぃか!なんか買ってくか?」

「あ、じゃあ…」

「エルシアちゃん、お人形さんみたいね!」
「あら、肉屋の裕子さんじゃない!どうしたのその子?」
「可愛いでしょー。エルシアちゃんよ」

俺は肉屋のおじさんと話していたので気づかなかった。裕子さんは人付き合いのうまい人で顔が広い。
だからエルシアはこの時みんなに囲まれていた。

「曇ってきたな…」

おじさんの声に気づき

「やべぇ早く帰らないと洗濯物が!エルシア!」

その時、エルシアを初めて見たのだ。

エルシアは知らない人に囲まれて今にも泣きそうだ。

「あ、すいません…ちょっと…」

人だかりをよけるようにエルシアのもとへいこうとする。

「う…う…」

泣き声が聞こえたと同時にさっきまで曇天だった空から雨が降った。

「雨だわ…大変!」

雨のおかげでさっきまでの人だかりは消え、エルシアのもとへすんなりたどり着いた。

「ごめん、エルシア」

エルシアは泣いていた。きっと一人で心細かっただろう。

「…帰ろう」

頭の上にポンと手を置き、手を繋いだ。

エルシアはすすり泣きになり、だんだん泣き止んだ。それと同時に空も晴れてきた。

空はエルシアの感情にあわせているみたいだった。

「エルシア…大丈夫か?」

「うん」

「もうすぐ家に着くからよ…その時はたらふく食べさせてやる!」

「ほんと?」

「ああ!今日は肉買ったから焼き肉にでもすっか?」

「焼き肉って何?」

「おま…焼き肉も知らねえの?焼き肉は…あれだ!焼いた肉だよ」

「肉って何?」


どんだけ貧乏な暮らししてきたんだよ
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