光蔵
□ちゅーしましょ。
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自主練の休憩中、白石は右端コートの近くにあるベンチに腰掛け額から流れる汗をタオルで拭いていた。そこへ謙也が、何か企んでいるような笑みを浮かべ近付いてきた。
「なぁ、白石。財前の照れた顔見たぁない?」
「はぁ?何や、いきなり」
謙也は空いている隣りに腰掛け、間を詰めてきた。白石は暑苦しいから近寄んなと、接近してきた謙也の顔を右手で鷲掴みした。
「すんません。蔵ノ介クン…放してください。地味に痛いんやけど」
「で、財前の笑顔が何やねん」
白石は謙也の顔から手を放して、痛かったと両手で頬を覆っている謙也の方に顔を向けた。
「財前って、クールキャラやん。毒舌やし。俺のこと完璧舐めとるやろ…アホ呼ばわりしよって………ァィッ」
「………」
謙也の愚痴まじりの言葉に白石は、だから何だと言いたげな表情をした。
「せやから、そのクールで毒舌生意気な財前の照れた顔を見てみたいなぁと…。白石も見たこと無いやろ?」
「…まぁ、せやな(アホ呼ばわりされてもお前は文句言えんで…ホンマ)」
今までの謙也の言動を思い返し、白石は真顔のまま目を細めた。
「せやろ。そんで、問題はどうやって照れさすかっちゅー事なんやけど…」
「それはな、謙也さん!ちゅーするしか無いでぇ〜vV」
「小春っ!オレらも、ちゅーvV」
「近寄んなや、一氏っ!」
「小春ぅ〜」
一番左端のコートで小石川と打ち合いをしている財前を見ながら、謙也がどうするか悩んでいると、そこに小春とユウジがいつもの遣り取りをしながら話に入ってきた。
「それでホンマに財前が照れるん?」
「小春が言うんや!間違い無いで!」
白石の乗り気の無さそうな言葉に、ユウジが胸を張りながら自信満々に答えた。
「ほな、試しにやってみようやないかっ!」
目をキラキラ輝かせながら、もう待てませんと言わんばかりにベンチから謙也が立ち上がった。それと同時に、背後から声が聞こえた。
「なんだか面白い話しとっとね」
「なんや、なんや?ワイも仲間に入れてーな☆」
さっきまで、一番右端のコートで打ち合いをしていた千歳と金太郎がベンチの後ろに立っていた。
「なんや、人数増えたな」
「まぁ、ええんとちゃう?照れさせたもん勝ちっちゅー事で!」
白石の言葉に謙也がすぐさま反応を返した。
「ほな、この6人で勝負やな〜!順番決めはじゃんけん勝負や!」
「ちょい待ち。銀は参加せんのか?」
謙也の言葉を遮るように、白石が口を開いた。そして、ベンチから少し離れた場所に仁王立ちしている銀に言葉を投げ掛けた。
「………せん…」
銀は微動だにせず、一言そう口にした。
(誰得やねん………)
白石以外の何人かが、そう心の中で思ったのは言うまでもない…。
「ほな、気ぃ取り直してじゃんけん勝負いくでー!」
「「「「「「じゃん、けん、ポイっ!!」」」」」」
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