小説

□翡翠様への捧げ物
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「・・・ねぇ、白竜」
「・・・なんだ」
「僕死んでるんだ」
 シュウに会うためゴッドエデンに来た白竜に、突如シュウはそう言った。
 遠くに見える夕日が何故か目に毒だ。広大な森林も、今は心安らがない。
 
 けれど、シュウの言葉はなんとなく理解できた。
 浮世離れした美しさ、いや外見のことじゃなく、(勿論外見も美形に当たるが)内からにじみ出るようなそれはおそらくこの世のモノが発せられるモノではないと思っていたから。
 そうか、そういうことなのか。
「白竜には言っておこうと思ってね。・・・気持ち悪い?死人と話してるの」
「・・・さぁ、少し納得してる自分がいる」
「何それ、ひどいなー」
 ふふっ・・・と静かに微笑み、シュウは白竜の手を握った。
「・・・昔、ずーっと昔の話、白竜にもしたよね?」
「・・・生贄の女の子の話か。やっぱり、お前の身内だったんだな」
「気づいてたんだ」
「・・・お前が苦しそうだったから、そうかと思っただけだ。確信はなかった」
 呟き、白竜は自分の手を握るシュウの手を強く握り返した。
「それで、サッカーの神サマとやらもやってるんだろ」
「へー、そこまで知ってたんだ」
「・・・だから、なんとなく、な」
 手を離したら今にも消えてしまいそうなシュウの横顔を不安そうに見つめていると、シュウが白竜の頭を撫でた。
「なんの真似だ」
「なんかカワイイなーって。あ、白竜が可愛いのはいつものことだね」
 いたずらっぽく笑うシュウに、ようやく白竜は少し落ち着く。
 どこまで分かっていての行動なのだろうか。真意が掴めずに片手が空を切る。
「なぁ、シュウ」
「何?」
「・・・死ぬって、どういう感覚だ?」
「・・・・・・感覚、ね。
 身体的な感覚を言うなら、僕は自殺だったから、痛かったかな。
 精神的な話なら・・・うん、もっと痛かった」
「そう、か」
 シュウの胸を抑える仕草に、ひどく自分の胸も痛んだ。白竜はもうすぐ沈んでしまう夕日を眺めながら、シュウに尋ねた。
「なぁ」
「今度は何?」
「神サマって、何でも分かるのか」
「・・・何を知りたいの?」
「・・・俺って、いくつまで生きると思う」
「そうだね・・・たくさん苦労したんだろうね、若白髪で・・・多分、もう長くないんじゃないかなぁ」
「これは生まれつきだっ!」
「あはは、ごめんってばー」
 シュウの満面の笑顔に、自分が侮辱されたことなどすっかり忘れ白竜はひどく安心する。
 いつの間にか沈んでしまった夕日のせいで、辺りは既に暗い。シュウは白竜の手を名残惜しげに離すと、明かりをつけながら呟いた。
「・・・52」
「え?」
「52で死ぬよ、君」
「・・・マジで言ってる?」
「・・・ふふっ」
「ふふっじゃない!お前が言うと冗談に聞こえないんだっ」
「・・・ふふふっ」
「や・め・ろっ!」
「もー、そんなに怒んないで、冗談だから。
 多分」
「なっ――――――!!!」
 どんな話をしていても、結果は白竜がシュウのペースに巻き込まれて、勝った試しがない。
 だが何故か、白竜はシュウに心惹かれていた。それはおそらく、シュウが1番の理解者だからだろう。シュウはどんな話も聞いてくれる。下らないことでも、自分のすべてを吐露するような、重いことでも。
 だから、今日シュウが自分のことを話してくれたのは、少し嬉しかった。
「なぁ、シュウ」
「なんだい」
「俺が50で死んでも、そうじゃなくてもっと生きても、もっと早く死んでも、

 ・・・お前は俺のこと忘れないでいてくれるか、ずっと」

「・・・そうだね、ふふっ、君は面白いからね。忘れないよ。

 じゃあ君も約束してね。たとえ僕が君より先に成仏しちゃっても、君は死んだら僕のとこに来てね」

「分かった、約束する」

 指切りをして、シュウはもうカレーを差し出した。
「今日はここに泊まってくつもりでしょ?はい、夕飯」
「・・・ありがとう」
 
 今はまだ、この人と生きられることを信じていいのだろう。
 けど共にいつ互いを失うか分からないから。
 
 頼むから、今だけは愛して欲しい。
 
 
 この世から離れられないシュウの存在を、宿命を喜んでしまう自分は、

 きっと誰よりもシュウを苦しめることになるんだろうけど。

 その事実に気づかないふりをして、白竜はいつの間にかすやすやと寝息を立てて寝るシュウの隣で目をつぶった。


〜FIN〜

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