小説

□新旧小姓の話
1ページ/1ページ

「あっれ〜信長さんじゃないですかぁ〜、こんにちはですっ☆」
「あ、あ、う、うん!こんにちは!(;^ω^)」
 ミュージックトゥナイト収録前、楽屋に入ろうとした信長と蘭丸の前に前田利家が現れた。しかし前田利家の姿までは知らない蘭丸は、またもや信長が浮気したのかと怪訝そうな顔で信長に尋ねる。
「・・・信長さん、その方は・・・?」
 背後からゴゴゴゴゴ・・・とでも聞こえそうなその迫力に、信長はひぃっ!?と素っ頓狂な声をあげる。
「ちょ、お蘭!何考えてるかわかんないけど、違うよっ!お蘭が考えてるようなアレじゃないよ!あの、こいつは」
「信長さんの元小姓で元カノ、トシリンこと前田利家で〜すっ!いえ〜い(*≧∀≦*)」
「元・・・カノ・・・?」
 まさか元カノと再び関係を持とうってことですか・・・信長さん・・・?あの時もう浮気しないって言ったのに・・・嘘だったんですか・・・?いやでも、まだ浮気と決まったわけじゃ・・・今たまたま会っただけですし!でも前田さんって、今まで気づかなかったけどももいろゴタイローのリーダーの前田さんですよね?テレビで見ても生で見てもすっごく可愛いじゃないですか。それこそ僕なんかより・・・いや!信長さんのことを信じるって決めたじゃないか!・・・でも、それでももし、本当に浮気だったら・・・
 蘭丸が頭の中でグルグルと信長の浮気の可能性について考えていると、途端にグイッと腕を引っ張られた。
 最初は信長に引っ張られたのだと蘭丸は思ったが、違った。
「えっ・・・?っと・・・あの」
「じゃ、信長さんはコレでっ!行こうランラン!」
「ちょっ、お前お蘭どこに連れてく気だっ!待てコノヤ―――――」
 信長が最後まで言い終わるのも聞き取れないほど、利家は蘭丸を引っ張りとてつもなく速い速度で走る。
 途中で見失ったのか、信長の姿はもう後方にはない。引っ張られるがまま走るのに夢中で抵抗することもできないまま、蘭丸は利家に尋ねる。
「あ、あのすいませんっ!」
「な〜にぃ?」
「あの、僕これから収録があって・・・」
「2時間後でしょ〜?」
「ど、どうしてそれを」
「信長さんそういう人だから。あの人2時間前に来てのんびり小姓と過ごすんだよ」
 まるで信長を知り尽くしたかのようなセリフに少しムカッとしたが、すぐに自分よりも信長の小姓として過ごしたことがあるのだから当たり前か、と少し落ち込む。
 そのモヤモヤを振り払うように、信長と関係性が出ないように話をした。
「というか、今どこに向かってるんですか」
「ん〜とね・・・あ、ついたついた!」
 同じビルの中のその部屋は、おそらく楽屋ではない。
「ここは・・・?」
「ここはね〜秀吉さんプロデュースの人しか入れないVIPルーム!信長さんは絶対入れないからね!」
「それって僕入っちゃダメなんじゃ」
「だ〜いじょ〜ぶ!僕が傍にいるからっ」
 利家の輝く笑顔に引っ張られ、蘭丸は個室へと進められる。その個室は周りのキラキラとした派手なものではなく、普通の和室のそれだった。
「ランランはこっちの方が落ち着くでしょ?ちょっと待っててね、今お茶持ってくるから〜」
 と言って利家は本当に個室を出てお茶を注ぎに行く。この隙に脱出することも出来るが、今のモヤモヤした気持ちで信長の下に帰るのも気が進まなかった。何より、利家がわざわざ拉致してまでここに連れてきたということは、何か自分に要件でもあるのだろう。
 蘭丸が大人しく畳の上に乗っけられた机の前で座布団に乗り正座をしていると、利家がお茶をお盆の上に乗っけて持ってきた。その中にはオシャレなお茶請けまである。
「遠慮しないで食べていいんだぞっ☆」
「あ、はい。後ほど有り難く頂かせていたただきます。
 ・・・それより、あの、僕をここへ連れてきたのは、何か理由があってのことですよね・・・?」
「あぁ、うん、まぁね。・・・ま、そう硬くならなくてもいいよ。取って食おうとか思ってないし。そんなことしたら信長さんに殺されちゃうもん。・・・まぁ別に大したことじゃないよ。ちょっと世間話したいなーって思ったんだ。信長さんの新しい彼女さんと」
 彼女さん。その一言に蘭丸は少し顔を赤らめたが、すぐにまた思い出す。
 この人は、信長さんの元小姓であり、元彼女。思うと、蘭丸の胸がちくりと痛んだ。
「・・・利家さんは、信長さんと昔付き合っていらっしゃったんですよね・・・?」
「ちょっと、利家さんだなんて硬い!トシリンって呼んでくれなきゃ応じないんだぞっ!」
「あ、はい・・・トシリンさん。あの、さっきの質問・・・」
「あー、うん。まぁ、そういうことになるのかなぁ。今はもうなんとも思ってないんだけどね」
 その言葉にほっと胸を撫で下ろす。しかし目の前に利家がいることを思い出し、申し訳なくなりつい謝った。
「いーのいーの。なんかランラン可愛いなー。信長さんに仕えてるなんて、なんか勿体なーい」
「――――そんなことないです!!信長さんはとても素敵で・・・むしろ僕が傍にいることのほうが・・・」
 おかしいんです・・・と、蘭丸は消え入りそうな言葉で呟く。
「そーかな〜ランラン可愛いよ?信長さんは性格も勿論重視するけど面食いでもあるしね〜。でもそっか、ランラン選ぶのもわかるな〜」
「え・・・?」
「ランランってば僕に連れ去られてるのに暴言の1つも吐かないし、信長さんのこと知ったような偉そうなこと言ってもグッと堪えるし、凄いよねっ!僕だったら槍の1つや2つブッ刺しちゃう☆何より顔もすっごい可愛いし、信長さんの好みにドストライクだよ」
「そんな・・・そんなことないです。僕・・・信長さんの浮気にすっごい嫉妬しちゃって、一介の小姓のくせに・・・」
「えー!!信じらんない、まだ信長さん浮気してんのー!?ランランみたいな可愛い子いるのに、信じらんなーい!」
 利家の言葉に苦笑いを返すしかなかったが、ふと利家の言葉が頭の中でリフレインされる。
「“まだ”ってことは・・・もしかして」
「あ、ランラン目敏〜い☆いや、耳聰い?ま、どっちでもいいやっ。
 ・・・そーだよ、僕も信長さんにしょっちゅ浮気されてたんだよっ。ひどいよね〜プンプンッ!て感じ」
「そうなんですか・・・トシリンさんまで浮気されちゃうんですから、それは僕だってされちゃいますよね・・・」
「そー?でもさ信長さん、ランランに浮気がバレたとき、必死に謝ってたでしょ。最初は本気で誤魔化そうともしてたし」
「あ、はい・・・」
 言いながら蘭丸はいつの間にか放送されていた楽屋での信長の土下座を思い出す。
「あれってすごいことだよねー」
 確かに、考えてみれば主君に土下座をさせてしまったなんて、とてつもなく失礼なことですよね・・・。蘭丸がそう言えば、利家は綺麗な金髪をサラサラと揺らしなが違うよーと首を振った。
「そーじゃなくって、浮気がバレたとき謝るのはその人と別れたくないからするんだから。どーでもよかったら謝ったり誤魔化したりしようとしないもん。僕はそうだったよ」
「え・・・?」
「僕が前付き合ってた時ねー、信長さんすっごい浮気してたの。ランランとは比べ物にならないくらい、ね。週に1回僕と過ごすか過ごさないかで、あとは毎晩どっか行ってた。まーそれには僕にも原因があるんだろうけどねー。僕信長さんの行き過ぎた夜遊びが始まる前、よく信長さんほっといて友達と遊びに行っちゃってたし、夜遊び始まったあとも腹いせに信長さんのポケットマネーでショッピングしてたしっ。そしたら余計酷くなっちゃったんだけど☆・・・で、最後の最後浮気を問い詰めたとき、誤魔化さなかったし、謝りもしなかったんだよー?あっけらかーんと『あぁ、浮気したよ』なーんて言っちゃって。じゃあ僕が浮気してもいいの?って聞いても『好きにしたら?』って。ひっどいよねー。あの時は槍でブッ刺してやろうかと思っちゃたよ☆まぁそれでふんぎりがついて潔く分かれてやりましたけどね。だからさ、ランランは凄いんだよぉ?あの誰にも執着しない信長さんに執着されて――――・・・ってどうして泣いてんのランラン!?ちょっと、大丈夫!?」
 利家の話を聞いているうちに、蘭丸は涙が止まらなくなってきた。どうしてだかは分からないけど、何故かとても辛いのだ。
「ランランが泣くことじゃないでしょ、ね?ほら、ハンカチ」
 焦ったように言う利家にすいませんお借りしますとハンカチで涙を拭き、蘭丸は利家を抱きしめた。
「え、ちょっとランラン・・・?」
「ごめんなさいっ・・・でも、僕がこんなこと言うの、厚かましいし、酷いと思いますけど、つ、辛かったですよね・・・っトシリンさん・・・それなのにたくさん話してくれて、僕のためですよね・・・?ありがとうございますっ・・・」
「ランラン・・・やっぱり、信長さんが好きになっちゃうだけあるなぁ。でもそう思うとやっぱり信長さん許せない!僕はともかく、こーんないい子いるのに浮気しちゃうなんて!あ、槍で刺してこよっかな」
「そ、それはダメですっ!(((゜Д゜;)))!!」
「うそうそじょーだん☆ランランおかたいんだぞっ☆」
 そう言って蘭丸の腕の中からスポッと抜け出した華奢な体が、少しだけ震えているような気がした。蘭丸が利家を見ながらぼうっとしていると、利家から携帯を顔の前に差し出される。
「ランラン、メアド交換しない?」
「え?」
「ランランとは話しやすいし、ランランさえよかったらまたゆっくりお話したいな〜って」
「で、でも・・・携帯は・・・その、信長さんに他の人の着信を怒ったのにそんなこと・・・」
「いーのいーの!信長さんだって他の小姓とメールしまくってたんでしょ?それにランランと僕は友人としてなんだから、別にいいじゃん☆」
「でも・・・」
「いーの!信長さんは1回ランランの存在の重要さを噛み締めるべきだよねー!・・・それと、さっきトシリンさん辛かったでしょとか言ってたけど、そんなこともないんだよねー。信長さんのことは確かに辛かったけど、今は好きな人いるからもういいの!」
 いつもテレビで見る利家とは違う、作り笑いじゃない綺麗な笑顔を浮かべ蘭丸に微笑みかける。
「あ、そういえばさ、ランランミュージックトゥナイト見てるのに僕のこと知らないの?」
「いえ、知っていますよ。けど、まさか信長さんの元カノじゃないだろう、同姓同名なだけだろうって・・・だって、僕なんかより明るくて可愛らしいのに、なんで今僕なんかと、って・・・」
「も〜!君にそんなこと言われたって、嫌味にしか感じないんだぞっ!」
「す、すみません!そんなつもりじゃ・・・」
「分かってるよ。だったらもう、そんなこと言わないのっ。誰でもない信長さんの見立てでしょ?」
「・・・ハイ!」
 すっかり利家と打ち解けた蘭丸は利家とメアドを交換し、ふとその携帯の待ち受けに目がいった。
「その方が、トシリンさんのお好きな方なんですか?」
 2人で撮ったらしきプリクラの画像が表示されている待受を見て、蘭丸は尋ねる。トシリンさんもすっごくカワイイけど、この方もとても可愛いというか、綺麗で・・・ってあれ?
「・・・イエリンさん?」
「・・・うん、そーなんだよね」
「でも、お2人仲悪いんじゃ・・・」
「最初はねー。まぁ今でも相容れないことはあるよ。ムカツクぅーとかあるし。でもなんでかなー、好きになっちゃったんだよねー。まぁでも、恋ってカンチガイみたいなものだと思うんだよねぇ。一緒にいるから好きかもーって思っちゃうんだろうし。まぁそれなら僕はずっとカンチガイしたまんまでいいや☆と思って」
「イエリンさんのこと、大好きなんですね」
「・・・まぁ、ね!」
 心なしか、利家の顔がほんのり赤く染まったように見受けられる。やっぱりトシリンさん可愛いです・・・と今度は穏やかな気持ちで思っていると、ふと蘭丸の目の前に時計が入ってきた。
「あ、もう1時間もここにいたんですねっ。すいません長居してしまって」
「いいんだよっ、僕が無理矢理拉致ってきたんだから。あ、楽屋への帰り道分かる?」
「はい、大丈夫です。今日は有難うございました、トシリンさん」
「まったね〜、ランラン☆」
「はい!」
 返事しながら、蘭丸は愛する主君の元へと走る。それを微笑みながら見つめる利家の視界の端に、家康が写った。
「イエリン、盗み聞きしてたでしょー」
「あ、バレてたー?」
「バッレバレー」
「えへへーメンゴですっ☆」
「いー・・・よくないっ」
「え〜、いいじゃん、蘭丸くんとの百合(に見える)デート許したんだからっ。でも浮気したら許さないよぉ?トシリンは僕が牛耳るんだからっ」
「もー何なのそれ・・・イエリンってば横暴すぎるんだぞっ」
「えへへー(๑≧౪≦)」
 後ろからギューっと自分を抱きすくめるイエリンの腕を掴んで、トシリンは幸せそうに微笑んだ。


 そして蘭丸が楽屋に戻ると、泣きはらした目でおらん!と叫びこっちを見る人が・・・って信長さん!?
「ど、どうしたのですか信長さん!?」
「お、お蘭ずっと帰ってこないし、ケータイに電話しても出ないし、ビル中探し回っても周辺探しても明智に遠くまで探しに行かせても見つからないし・・・利家からは“ランランに酷いことばっかしてるから、ランラン取ってやったんだぞ☆”ってメール来るし・・・愛想尽かされたのかと・・・」
「・・・僕が信長さんを嫌いになるはずないじゃないですか・・・。僕はずっと信長さんのモノで、信長さんのお側におります」
 腰に抱きついて自分にすがりつく主人の姿は甘えん坊の大型犬のようで、少し愛らしかった。そんな2人のもとに収録が始まるとスタッフが伝えに来て、携帯をおいていくよう促される。
 信長はこの前のように駄々をこねずに置いていったので、蘭丸も平然と置いていくことにした。
 
 そして収録中、案の定携帯の着信履歴やアドレスの公開となった。
 信長の携帯はなんと蘭丸のアドレスと着信だけになっており、信長はドヤ顔で蘭丸を見つめる。
「良かったなー蘭丸」
「はい・・・///」
 うしろシティのコメントに、蘭丸は嬉しそうに頷く。
 しかし蘭丸の携帯に登録されていたのは織田信長と・・・前田利家2人のアドレスだった。
「あれ、今度は蘭丸っ!?しかも前田利家って、信長さんの元カノちゃうん!?」
「お、お蘭、どゆこと・・・?:(;゙゚'ω゚'):」
「・・・ふふっ、内緒ですよ♥」
 ニッコリと微笑む蘭丸に、それ以上尋ねることのできる人間はいなかった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ