小説
□手
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「そういえば昔、手が冷たい人は心があったかいって噂、流行りましたよねー」
雪がちらちらと降る、寒い冬の夜中。
およそ一刻程前にやってきただろうか、大石は、今は固く閉じられた窓の近くにある二人がけのソファに座る僕の横へ至極当然のことのように座り、外から入ってきた割に僕よりずっとあたたかい手で僕の手を包んでいた。
そして一刻程、ずっとこの体制で僕の手を温めながら大石は言った。
「・・・あぁ、そういえば昔、そんなこと言ってたねー・・・」
「吉良さんの手って、どんな時でも冷たいですよね。俺1時間くらいあっためてるのに、まだちょっと冷たい。吉良さんの心って、相当あったかいんですねー」
「僕冷え性なだけなんだけど」
冷めたように言う僕に、大石はもっとメルヘンチックに考えましょうよーと頬をふくらませた。
「可愛くないよー、大石」
「そりゃあ吉良さんの可愛さに勝とうとは思いませんけど」
相変わらずな昼行灯の揚げ足取りに内心少し関心しつつ、しかしムカつくそのニヤケ顔を浮かべる顔を持ち主とするヤツの手を強く握った。
「い、痛い痛い!吉良さん、地味に痛い!地味に骨折れそう!ポキって!」
「大石の手はあったかいよねー・・・
手のあったかい人の心は冷たいんだってね。大石は僕が出会った人の中で1番手があったかいよ」
流石に本当に折ってしまうと後後こいつが折ったお仕置きだとか言って変なことをしてくるかもしれないから、面倒臭くなる前にやめておく。
吉良は大石の手を一旦離し、今度はうって変わって優しく包み込むように握った。
「ねぇ、大石。
寒いからまだ握っててよ」
「でも吉良さん、一向にあったまらないじゃん」
「いいんだよ。
君の心の冷たさを、僕の手の冷たさで埋めてあげるんだから」
「ハハッ、じゃあ、吉良さんは逆に心が冷たくなっちゃうのかなー。
ドSで冷徹な吉良さん・・・。
あ、割といいかも」
「新たな嗜好に勝手に目覚めないでくれるかなぁ。
・・・でもそんなの大石じゃないねぇ。やっぱり、今の大石の方がいいや」
「俺もですね」
―――――今のままの君の方が、張り合い甲斐があって面白い。