小説

□幸福論
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 〜留三郎目線の話です〜

 
 六年は組、善法寺伊作は不幸である。

 俺の同室の伊作は不運委員会改め保健委員会委員長だ。

 故にというかなんというか、伊作はとにかく不幸だ。人智を超えた不幸なやつである。

 いつも薬草が足りないと深夜にアルバイトをし(結果自分も手伝うが)、綾部掘った落とし穴にハマり、斎藤に髪を切られそうになり、喜三太のナメクジのツボに足を突っ込みそうになり、避けた先に蜂の巣があってぶつかり鉢に追い掛け回されたり・・・

 とにかく不幸である。

 それでも、何故かあいつはいつもヘコたれないのだ。

 思い切って、理由を聞いてみることにした。

 久しぶりにバイトのない、穏やかな夜。

 机に向き勉強をしながら、布団に転がる伊作に話しかけた。

「なぁ、伊作」

「なんだい、留三郎」

「・・・お前、何でそんな不幸で平気なんだ?」

 今日だって、コケて折角綺麗な顔に散々な傷をつけていたろ。


「んー・・・平気ってワケじゃないけどさ・・・
 なんていうかね、これは報いだと思ってるんだよ」

「報い?」

「みたいな、ね。
 きっと、これは僕が一生分の幸福を使い切ったから、残りの不幸が襲って来てるんじゃないかって。ねぇ、それが何か留三郎は分かる?」

 一生分の?こいつにそこまで思わせるほど幸福とは一体なんだ?

 だって一生分だぞ?

 留三郎は観念した、と言わんばかりに文字通りお手上げの意を体で示した。
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