小説
□幸福論
1ページ/3ページ
〜留三郎目線の話です〜
六年は組、善法寺伊作は不幸である。
俺の同室の伊作は不運委員会改め保健委員会委員長だ。
故にというかなんというか、伊作はとにかく不幸だ。人智を超えた不幸なやつである。
いつも薬草が足りないと深夜にアルバイトをし(結果自分も手伝うが)、綾部掘った落とし穴にハマり、斎藤に髪を切られそうになり、喜三太のナメクジのツボに足を突っ込みそうになり、避けた先に蜂の巣があってぶつかり鉢に追い掛け回されたり・・・
とにかく不幸である。
それでも、何故かあいつはいつもヘコたれないのだ。
思い切って、理由を聞いてみることにした。
久しぶりにバイトのない、穏やかな夜。
机に向き勉強をしながら、布団に転がる伊作に話しかけた。
「なぁ、伊作」
「なんだい、留三郎」
「・・・お前、何でそんな不幸で平気なんだ?」
今日だって、コケて折角綺麗な顔に散々な傷をつけていたろ。
「んー・・・平気ってワケじゃないけどさ・・・
なんていうかね、これは報いだと思ってるんだよ」
「報い?」
「みたいな、ね。
きっと、これは僕が一生分の幸福を使い切ったから、残りの不幸が襲って来てるんじゃないかって。ねぇ、それが何か留三郎は分かる?」
一生分の?こいつにそこまで思わせるほど幸福とは一体なんだ?
だって一生分だぞ?
留三郎は観念した、と言わんばかりに文字通りお手上げの意を体で示した。