White Wizard

□File No.01 工藤の犬
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 先輩に見つかったという恐怖で仁彦は顔面を蒼白にした。今まで先輩に対して恐いイメージしか持っていなかった仁彦は、緊張で身体が震え、今にも倒れそうである。
 新一はそんな仁彦を見て怒る気にもなれず、仁彦の頭に手を置こうとする。それだけでも仁彦は肩を揺らし目をぎゅっとつむった。

「(あれ?痛くない…)」
「そんな緊張すんなよ、こっちまで緊張しちまうだろ?」

 苦笑しながら頭を撫でる新一に仁彦は先程までつむっていた目を限界まで開いた。そして仁彦は恐る恐る口を開いた。

「……怒ってないんですか?」
「なにが?」
「その…勝手に練習さぼったこと……」

 途中、不安になって言葉が尻込みしてしまった。やっぱり後ろめたい気持ちがあるのか視線は下へと落ちてしまう。

「バーロォ…怒ってなんかねーよ」
「っ…」
「さぼってた奴のボールがこんなにきたねー訳ねーだろ」

 そう言って新一が手渡したのはこの一月間、仁彦がずっと蹴っていたボールだった。少し空気が抜けたボールは泥にまみれ、所々ほつれている部分もあった。
 毎日練習後ボールを磨いていたが、取れなかった汚れ。その上に一滴の雫が落ちる。仁彦が人前で初めて涙を流した瞬間であった。

「先輩、俺がここにいることどうしてわかったんですか?」

 ようやく涙が止まった仁彦は新一に尋ねた。
 ここはグラウンドから一番遠いところにあり、なおかつ周辺の木々が密集し、まるで林の様になっていて、視界がかなり悪い。
 そもそも日当たりが悪く、風通しがあまり良くないことから、生徒はもとより教師すら近づかない。練習中に偶然見つけなければ一生、仁彦は寄りつかなかったであろう場所だ。そんな場所を一体どうやって見つけたのだろうか……

「なぁに、簡単なことさ…」

 仁彦は唾を飲み新一の言葉を待つ。

「お前がここに入っていくのを見たからだ」
「え、は?」

 新一の予想外の発言に仁彦は間抜けな声を出した。目の前の先輩が高校生探偵であることを知っていた彼は、てっきり見事な推理をして自分を驚かせてくれると思っていたのだ。
 だが蓋を開ければ自分の不注意。色々期待していた仁彦にとっては全く嬉しくない誤算であった。




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