White Wizard

□File No.01 工藤の犬
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 帝丹高校にはちょっとした噂が流れていた。「高校生探偵 工藤新一には犬がいる」と……



File No.01 工藤の犬




 犬、といっても動物の犬ではない。れっきとした人間である。
 犬…基、塩谷仁彦は外見こそ派手だがいたって普通の高校生である。くせのある明るめの茶髪に同色の瞳、制服は着崩されているが不快な印象は与えず、むしろ彼によく似合っていた。
 背丈は175p近くあり、周りより頭半分抜きん出ていた。所属している弓道部では1年にして関東大会出場という経歴を持つ。

 これだけ聞くと仁彦は犬と呼ばれるには程遠い存在に感じられる。しかし彼と工藤新一は帝丹中学時代のサッカー部の先輩、後輩という関係であったことをふまえると話は違ってくる。


 塩谷仁彦は集中すると周りが見えなくなる、という癖を持っていた。この癖は自分をダメにする、そう思っていたのだ。
 工藤新一という先輩に会うまでは…

 仁彦は癖を直す為にサッカー部に入部するも、チームの和を乱す存在として疎まれ、次第に孤立していった。始めは練習に来ていた仁彦だが 一週間もたたないうちに、仁彦はグラウンドに行かなくなった。
 代わりに仁彦は校舎の隅でリフティングを練習するようになった。悔しかったのだ。弱い自分が、一向に直らない癖が、彼はなにかにとりつかれたかの様に練習に取り組んだ。

 仁彦が入部して一月がたったことである。
 その日も仁彦はリフティングを続けていた。始めはうまくボールを受け止められなくて何度もボールを転がしていたが、一月もリフティングをしていると次第と上手くなり、今では落とすことは滅多になくなった。
 「今日も記録更新出来るかな…」と思い仁彦がボールを蹴り上げた瞬間、「こら!一年坊主!」という怒鳴り声が後ろから響いた。
 仁彦は驚いて「ひっ」と声を上げ、ボールは地面にそのまま落下し、仁彦の後ろに転がって行く。仁彦が恐る恐る後ろを振り向くと……

「よぉ」
「……先輩」

 ボールを片手に素晴らしい笑顔の工藤新一が立っていた。




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