宝庫

□変わらないもの
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1章〜妙〜



「いやー、やっぱ裏の世界ってのは違うよなぁ」
 私の前を歩いている銀さんは、封筒に入った一万円札の枚数を数えながら呟いた。
「そうですね、あの仕事でそんなにもらえるなんて思いませんでしたよ」
 その横を歩く新ちゃんが相槌を打ち、私の横からは「それに、報酬とは別に酢昆布までもらえたアル! 銀ちゃーん、私、もうここで働いてもいいアルヨ」なんていう、神楽ちゃんの嬉しそうな声が聞こえてくる。私は、「良かったわね、神楽ちゃん」と、にっこりとほほえんだ。
 女の声と香りにあふれている道。次々に目に飛び込む、派手な色の着物。吉原独特の雰囲気が漂っている。思い切り浮いている私たち4人だが、好奇の視線にさらされながらも堂々と歩いていた。
 数え終わったらしい銀さんが、「うおっ、25万も入ってんじゃねーか!」と驚く。
「マジでか! もしかして、卵ごはんだけじゃなくて、ふりかけごはんも食べれるアルカ!?」
「おう! 当然だ!」
 そんな取り留めもない会話を続けながらゆっくり進む。すると、その会話を聞きつけてか、「あら、銀さんじゃないかい」という声がかかった。
「そんな上機嫌で、収入が良かった?」
「日輪さん!」
 すぐに新ちゃんが反応する。振り返ったそこにいたのは、車いすに乗った、とても美しい女性だった。
「まあな、25万だ」
「へえ、すごいじゃないの! ……まあ、こっちとしても助かったしねえ」
 今日の仕事は、ここ、吉原での仕事だった。といってもそういう感じの吉原らしい仕事などではなく、いらなくなった建物の解体作業を手伝ったりしただけである。お金に困っていた銀さんに、私が紹介した仕事だった。ちなみにその仕事の情報は、私の仕事の関係上 友達になっていた花魁から聞いたものだ。
「せっかくだし寄って行かないかい? サービスするよ」
 日輪さんが銀さんを誘う。機嫌のいい銀さんはもちろん、
「もちろんだコノヤロー!」
 ノリノリな銀さんは一瞬で顔を上げて答えて、次の瞬間には歩き出す。私たちのことなんか気にもしていない。ついてくると分かっているのだろう。私たちは顔を見合わせて苦笑を浮かべ、やっぱり銀さんの後を追って歩き出した。
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