黒子のバスケ

□濡れた靴と携帯と
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駅には俺しかいなかった。

ピカピカと点滅する蛍光灯が一層俺を一人だと実感させた。

雨で濡れた靴は冬の冷たい空気で自分の足までも冷たくするのだ。

ひたすら駅のベンチに座り暗記カードをめくってもその寒さで頭の中を単語がするする抜けていく。

手も悴んできてなんだか眠い。

これが冬山での気分なのか。

寝たら死ぬ。

自販機で買ったおしるこも冷えはじめぬるい。

ぼー、と向かい側のホームを見つめ思考が停止しはじめる。

瞬間、携帯が揺れ振動が体に伝わる。

親からの電話だと思いドキッとしたがメールだった。

「高尾…?」

表示された文字読み珍しく思う。

いつもはこんな時間にメールはしてこない。

携帯を開き確認すると、女子がやるようなカラフルなメールだった。

【池袋帰りなう!電車なんだけど次の駅夜は暗くて怖い!そこで降りるとかマジやべぇ…。】

のんきなものだ。

怒りを通り越して呆れる。
俺は悴んだ手で【知らん。】と、携帯を打つ。

送信したとたんに電車のくる音がし、冷たい風がホームを流れて思わず目をつむる。

ガタン、と扉が開くのを耳で聞き電車がさるのを待つ。

ベンチに座っているだけで電車に乗らないから、なんだか見られてる気がするのだ。

速く去れ、と念じながら電車が発車するのと同時に目をあげる。

すると、目の前には見慣れた姿。

「なにしてんの!?」

「高尾!」

つり目を大きく開き心底驚いたように近づいてくる。

自分とは違い私服を着て、いかにも休日をエンジョイした、という感じだ。

「うっはー!休日に真ちゃんに会えたのは嬉しいけど、弱ってるね!」

嬉しそうにいう高尾は自分の首を巻いていたマフラーを俺に巻き付けてくる。

高尾の体温でマフラーは温かく心がじんとする。

「寒いよね、俺がおしるこ買ってあげる。」

高尾は小走りで自販機まで行きしばらくすると宣言通りおしるこを手にまた小走りで戻ってきた。

おしるこを受けとると、冷えていた手がじんわりと温かくなる。

「真ちゃんさ、なんかあったら俺に連絡くれても良いんだよ?」

「……馬鹿言え。」

「さいですか……。」

高尾はどかりと隣に座り、はぁ、と息を吐き出す。

寒い、と口にしながら手を擦り合わせている。

帰ればいいのに。

そう思い見ているとバチリと目があった。

高尾は驚いた顔をしたが、すぐににこりと無邪気な笑みを浮かべた。

「か、帰らないのか?」

「…一緒にいたくない?」

「別に」

「俺は一緒にいたいからまだいるよ!」

訳がわからないことを言われて戸惑う。

とりあえず眼鏡をあげて目を反らす。

すると高尾におしるこを持っていない左手を握りしめられた。

「な、」

「…寒いから俺が温めてあげる。真ちゃん俺が来なかったらずっと一人だったでしょ」

「……」

「心配させろよな」

確かに高尾が来なかったら、この手のぬくもりもマフラーもなかっただろう。

濡れた靴と携帯だけだったからもしれない。

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