記憶を失くした歌姫

□第8話
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〜音莉視点〜


なんとか気を取り戻し、身支度を整えた私は、新八君の作ってくれた朝ご飯を食べていた。…のだがいつもとは少し光景が違う。


向かいの席には新八君、神楽ちゃん。それから私と銀さんはその反対側のソファーに座って食べるのだが、今日は私、銀さんの横にもう一人。納豆を練り混ぜている先程銀さんに抱きついていた人…藤紫色の長い髪に忍者の格好をしている女性がいた。


新八君が作ってくれた美味しいハズの朝ご飯が喉を通らない。


(銀)「で、この人誰?」


(新)「アンタが連れ込んだんでしょーが!」


新八君が腕を組みながら言う。


(銀)「昨日は……ああ、ダメだ。飲みに行った所までしか覚えてねーや」


(新)「忍者のコスプレまでしてとぼけないでくださいよ。くノ一か、くノ一プレイか!」


(銀)「いい加減にしろよ! んな事するワケねーだろ! 俺はどっちかっていうとナースの方がいい!」


私はなんとなく苛ついて、机をバンッと叩く。


(銀)「…スイマセン」


(神)「新八、男は若いうちに遊んでた方がいいアル。じゃないといい歳こいてから若い女に騙されたり変な遊びにハマっちゃう、ってマミーが言ってたヨ」


(銀)「お前のマミーも苦労したんだな…」


そして銀さんは隣の女性の方に向く。


(銀)「あの…俺何も覚えてないんっスけど。何か変なことしましたか?」


(?)「いいえ? 何も」


(銀)「そうかそうか、よかった。俺はてっきり酒の勢いで何か間違いを起こしたのかと…」


すると、その女性が銀さんの方に詰め寄る。


(?)「夫婦の間に間違いなんてないわ。どんなマニアックな要望にも私は答えるわ」


夫婦…?


(銀)「はい?」


(?)「さあアナタ、納豆がこんなにネバネバに練れましたよ。はい、あーん♡」


その人は銀さんの目にお箸を突き刺す。


(銀)「イタタタタ! そこ口じゃないから! そこ口じゃないよ! 目は口程にものを言うって言うけど口じゃないから! てか何? 夫婦って…」


(?)「責任とってくれるんでしょ? あんな事したんだから…」


あんな事?


(あ)「(まさか…ね?)」


その時、胸がチクリと痛んだ。


(銀)「あんな事ってなんだよ! 何もしてねーよ、俺は!」


(?)「何言ってるの。この納豆のように絡みあった仲じゃない。…あいた、痛い」


その人は自分でお箸を目に突き刺す。


(銀)「だからそこ口じゃねェって言ってんだろ!」


(新)「銀さん、やっちゃったもんは仕方がないよ。認知しよう」


(神)「結婚は惚れるより慣れアルヨ」


(銀)「お前らまで何言ってんの!? みんなの銀さんが納豆女に取られちゃうよ!?」


その会話を聞いてさらに胸が痛む。


(あ)「っ……」


(銀)「冗談じゃねーよ! この俺が何も覚えてない事をいいことに騙そうとしてるんだろ! な? 大体僕らお互いの名前も知らないのにさ、結婚だなんて…」


(?)「とぼけたくせして…。身体は知ってるくせにさぁ」


その人は頬を赤らめて定春に向かって言う。


(銀)「嫌な事言うんじゃねーよ! それからそれ銀さんじゃねーぞ!」


すると定春がその女の人の頭を飲み込んだ。


(新)「目が悪いならメガネかけなよ! 落ちてましたよ、コレ!」


新八君がその人のであろう眼鏡を手にして言った。


するとその人は床に正座をして、新八君の方に向かって頭を下げる。


(さ)「というわけで、さっちゃんと申します。どうぞ末永く幸せにしてくださいね、旦那様」


(新)「ああどうも。こちらこそよろしく」


(神)「夕飯は肉より魚でお願いネ」


(銀)「受け入れるの早っ! てか銀さんこっちだってば!」


(さ)「(ふっ…追手をかわすため、しばらくここに身を潜めさせてもらうわ)」


すると神楽ちゃんが私のお茶碗を見て言う。


(神)「音莉、全然ご飯食べてないネ」


(あ)「え? あぁ、なんとなく食欲ないんだ…」


(新)「カゼですか?」


(あ)「え、ええっと…」


…ここでみんなに心配かけちゃいけない!


(あ)「全然! 私はバリバリ元気よ!」


私は二人に笑って見せる。


(神&新)「「………」」


(さ)「(あの女、少々邪魔かしら…)」
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