記憶を失くした歌姫

□第6話
6ページ/8ページ

銀さんと新八君が海をじっと見つめる。


私達女性群は砂の上に敷いた敷物の上に座り、その姿を見つめていた。


「だからさ、なんでこうなるの? オジさんなんか悪い事でもした? オジさん、ただ焼きそば焼いただけじゃねーか!」


あの店の店員さんは囮として、十字架に張り付けて海の中へと放り出した。


店員さんが何か叫ぶが、聞こえないフリをする私達。私達はえいりあんが来るのを今か今かと待っていた。


(銀)「釣れねーな…」


(新)「もしかしたらもうこの海にはいないんじゃないですか…」


(長)「いや、そんな事はないぞ! 奴はきっとこの海にいる。俺には分かる! えいりあんは俺達との勝負を待っている。男の勝負をな! えいりあんはその時が来るのを待っているに違いない…。分かるだろ、この気持ち」


長谷川さんが語っている間に、銀さんと新八君は泳ぎ始めた。


(長)「お嬢さん方、分かりますか? 俺の気持ち…」


(妙)「ええ、分かりますよ。私は」


私はアナタがとてもロマンチストだということが分かりましたけど…。


(長)「ああ、ありがとう。お嬢さん…うぇ…」


お妙さんが持ってきたお弁当箱を長谷川さんに差し出すと、長谷川さんは固まってしまった。


そこには真っ黒い"何か"があった。


(妙)「よかったらお一つどうですか? 今朝作ってきたんですよ? 卵焼き」


(長)「えっ…あ、あの……」


(あ)「お妙さん、それ…」


卵焼きなんですか…?


(妙)「お腹が空いては戦もできませんものね」


(長)「あ、あぁ…」


長谷川さんは意を決して、その真っ黒い物体を口にいれる。


卵焼きなのにジャリジャリとした音がした。


たちまち長谷川さんの顔が青くなる。


(神)「姉御の料理は危険ネ」


神楽ちゃんがコッソリ、海の方を恨めしそうに眺めながら言った。


(あ)「そうなんだ。気をつけよう…」


(妙)「よろしかったらもう一ついかがです?」


(長)「ああ、いや、もう充分です…。お嬢ちゃん、分かるか? 俺の気持ち…」


長谷川さんが神楽ちゃんに問いかける。


(神)「いいなぁ、みんな泳げて」


(長)「そうか、お嬢ちゃんは日の光に弱いから海水浴できないんだね。でもやめといた方がいいだろ。えいりあんが出るかもしれねェっつーのに大丈夫なのか? アイツら…。ま、いいか。人の話聞かねー奴は死んじまえばいいんだよ」


すると神楽ちゃんが大きな岩を持ち上げる。


(神)「いいなぁ、みんな泳げて…」


(長)「お嬢ちゃん、ちょっと何するつもり? どこで見つけてきたの、それ!?」


(神)「あんな幸せ見る位なら、いっそ壊してしまった方がマシヨ」


(長)「みんなー、逃げてー! 変な子がいるよー! ……ん?」


叫んでいた長谷川さんが見ていた先には、何か不穏な影があった。


(あ)「あれは…サメ? もしくは…えいりあん?」


(長)「ヤッベー、ダブルパンチだ…。おいみんな、逃げろー! ダブルパンチだ! 二つの恐怖が今まさに!!」


その声に銀さんと新八君が反応する。


(長)「後ろ! 志村後ろ! お嬢ちゃんもちょっと待って!!」


神楽ちゃんは岩を長谷川さんの横に置く。危うく長谷川さんの足が下敷きになる所だった。


(あ)「…はっ! 銀さん、後ろ!」


銀さん達の後ろにはえいりあんがいた。


そのえいりあんは、店員さんをくくりつけてある十字架を咥えていた。


銀さんと新八君は泳いで逃げようとするも、思うようにスピードが出ない。


(神)「銀ちゃん! 新八!」


(妙)「神楽ちゃん、その岩をえいりあんに投げなさい!」


(神)「うん!」


神楽ちゃんが岩を投げようとする。


(あ)「待って! あのえいりあん、私達が海で騒ぎだすからビックリしただけじゃないかな?」


(神&妙&長)「「「え?」」」


だとしたら攻撃するのは可哀想だ。





歌よ、届け!





(あ)《渓谷はさらに深淵となり
イルカたちの共鳴が響く
鍛冶屋町 「Hill ballet」 抜け
二番レンズのその先

ぐるぐるぐるって回った お喋りコンパスも
優柔不断な旅の 是非を決める有権者

“ドオシテ 運命ハ 頼リナク 廻ルノカ”
迷いの海を抜け クジラは空を飛んだ

I need you が 届かなくって
今日だって 泣きべそかいてます
この船の行く先を キミに合わせたら
進め》


私が歌い終わると、やがて暴れていたえいりあんは落ちつきをとり戻し、大人しくなった。


しかし、その間に銀さんと新八君は波にのまれてしまっていたのだ。


(あ)「銀さん! 新八君!」


するとえいりあんが海に潜り、次に浮き出てきた時には二人を背に乗せていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ