記憶を失くした歌姫
□第2話
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戦に敗れた死体が山ほど地面に転がっている中、俺はハム子をおぶってその死体だらけの真っ赤な道を歩いていた。
(銀)「ふんばれ、オイ! 絶対死なせねーから。俺が必ず助けてやるからよ!」
「捨てちまえよ、そんなもん」
(銀)「………!」
突如、どこからか声が聞こえてきた。
俺は足を止める。
「そんなもん背負ってたらてめーも死ぬぜ。どうせそいつは助からねェ。てめーには誰かを護るなんてできっこねーんだ。今迄一度だって大切なものを護りきれた事があったか?」
その声の主は俺の足元に転がっている、既に白骨化した死体からだった。
「目の前の敵を斬って斬って斬りまくって、それで何が残った? ただの死体の山じゃねーか」
俺はその声を無視してなんとか歩き出す。
「オメーは無力だ。もう全部捨てて楽になっちまえよ」
するとその時…
ガサガサ…
(銀)「………!」
おぶっていたハム子が白骨化した死体へと変わった。
「お前に護れるものなんて何もねーんだよ!」
(銀)「うるせェ…黙ってろ!」
その時…
(あ)「銀さん!」
目の前に音莉が現れた。
(銀)「音莉!? よかった、無事だったん……」
ザクッ!!
(あ)「っ……!?」
(銀)「えっ…?」
なんと音莉が見えない何かに刃で貫かれ、血まみれになってその場で倒れたのだ。
(銀)「あ…ああ…ああああああああああああああああ!!」
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(銀)「………!! はぁ…はぁ…」
夢、か……。
(銀)「ここは…」
よく見てみると、俺は布団に寝かされていたようで、傷の手当てまでしてくれている。
するとガラッと襖が開いて…
(桂)「ガラにもなくうなされていたようだな。昔の夢でも見たか?」
なんと、ヅラが入ってきた。
(銀)「ヅラ? なんでてめーが…」
ここで俺は音莉達が連れ去られていた事を思い出す。
(銀)「そうだ! ……うっ!」
だが動こうとすると身体中に痛みが走り、その場に倒れ伏せてしまう。
(桂)「無理はせぬがいい。左腕は使えぬ上、肋骨も何本かいってるそうだ。向こうはもっと重症だ」
向こう? ハム子の事か…。
(桂)「お前が庇ったおかげで外傷はそうでもないが、身体中が麻薬に蝕まれている。処置が早かったのは不幸中の幸いだが、果たして回復するかどうか…」
俺はなんとか身体を動かして起き上がる。
(銀)「あのクソガキめ…やっぱやってやがったか……」
(桂)「…と言うか、貴様は何であんな所にいたんだ?」
(銀)「と言うか、何でお前に助けられてるんだ? 俺は」
(桂)「と言うか、お前はコレを知っているか?」
ヅラが懐から袋に入った白い粉を取り出し、俺に見せる。
(銀)「………?」
(桂)「最近巷で出回っている『転生郷』と呼ばれる非合法薬物だ。辺境の星にだけ咲くと言われる特殊な植物から作られ、嗅ぐだけで強い快楽を得られるが依存性も他の比ではない。流行に敏感な若者達の間で出回っていたが、使用したものは皆例外なく悲惨な末路を辿っている」
(銀)「………」
(桂)「天人がもたらしたこの悪魔を根絶やしにすべく、我々攘夷党も情報を集めていた。そこにお前が降ってきたらしい。俺の仲間が見つけなければどうなっていた事か…。と言うか、お前は何であんな所にいたんだ?」
(銀)「と言うか、アイツらは一体何なんだ?」
(桂)「宇宙海賊『春雨』。銀河系で最大の規模をほこる犯罪シンジケートだ。奴等の主だった収入源は非合法薬物の売買による利益。その触手が末端とは言え、地球にも及んでいるというわけだ。天人に蝕(おか)された幕府の警察機構などアテに出来ん。
我等の手でどうにかしようと思っていたのだが…貴様がそれほど追い詰められるくらいだ。よほどの強敵らしい」
俺は立ち上がって、部屋の隅に置かれていた着物を手にする。
(桂)「時期尚早かもしれんな…ってオイ、聞いてるのか!?」
(銀)「…仲間が攫われた。ほっとくワケにはいかねェ」
(桂)「その身体で勝てる相手と?」
俺はそのまま縁側に出る。
(銀)「…人の一生は重き荷負うて遠き道を往くが如し。昔な、徳川田信秀というオッさんが言っていた言葉でな」
(桂)「誰だ、そのミックス大名! 家康公だ、家康公!」
(銀)「最初に聞いた時は何を辛気くせェ事をなんて思ったが…。なかなかどーして、年寄りの言う事はバカにできねーな」
(桂)「………」
(銀)「荷物ってんじゃねーが、誰でも両手に大事に何か抱えてるもんだ。だが担いでいる時にゃ気づきはしねェ。その重さに気づくのは全部手元から滑り落ちた時だ。もうこんなもの持たねーと何度思った事か知れねェ。なのに…またいつの間にかしょい込んでるんだ。
いっそ捨てちまえば楽になれるんだろーが、どうにもそーゆー気になれねェ。
荷物(アイツ)らがいねーと歩いててもあんまり面白くなくなっちまったからよォ」
アイツが…音莉がいねーと俺はもう生きてく事すらままならない。
するとヅラが立ち上がり、俺の横に並ぶ。
(桂)「仕方あるまい。お前には池田屋の時の借りがあるからな。……行くぞ」
(銀)「あ?」
(桂)「片腕では荷物も持てまいよ。今から俺がお前の左腕だ」
(銀)「ヅラ……」
その言葉に、俺はふっと笑った。