紫陽花

□序章
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 見渡す限りの晴天の下。ウェーブがかった黒髪の少女が、古びた屋根の上で気持ち良さそうに大の字に寝転がっていた。ふわりと心地好い風が少女の髪をさらう。

「っと…イオン!やっぱ此処にいたか」

「ぅえッ!?」

 突然屋根の下から現れた人物に驚き、少女――イオンは、飛び上がりそうになった。
 明るい黄土色の髪で額にタオルを巻いた少年が、ニカッと笑う。少し日に焼けた肌からは汗が浮いていた。

「やっと見つけた。ユウノがお前のこと探してたぞ」

「ユウノが?」

「おう。『イオンったらあたしとの約束すっぽかしたわね!!』とか言ってたけど」

「……あ。ああー!!ど、どうしようガルド、怒られちゃう」

 起き上がっておろおろしだしたイオンに笑いを堪えながら、ガルドは目を閉じて自分の唇を指差した。
 何を言われるのか分からず、イオンは首を傾げる。

「ん。キスしてくれたら、仲介してやんぶふぁっ」

 バチンッ、と思い切り平手打ちされ屋根から落ちた。そんなことには気付かずイオンは気恥ずかしそうに腕をバタつかせる。

「もう、ガルドのバカ最低……あれっ?ガルド落ちちゃった?」

 やっちゃった、と可愛らしく口元を手で抑えて下を覗く。そして覗くと同時に顔を上げて屈み込んだ。
 今一番見たくないものを見てしまった。

「おっも……!」

「いてて……え、何、もしかして俺の下にいるのユウノ?」

「が……ガルド!?ちょっと!早く上から退きなさいっ」

「うわっ叩くなって、ちゃんと退くから!……あ」

「きゃ……ど、何処触ってんのよこの変態バカぁーーッ!!」

「いや今の不可抗力!!」

 先程のイオンからの平手打ちよりも大きな乾いた音が村中に響き渡る。
 明らかに自分のせいで起こってしまった事故にイオンは頭痛がした。会話の内容と一瞬見た状況からして、落ちてしまったガルドの真下にたまたまいたユウノに本当にたまたまガルドが覆い被さるような状態になったようだ。何処を触って叩かれたかはわからないが。
 状況を確認する為に恐る恐るまた下を覗くと。


「イオン」


 見ただけで氷点下にいきそうな瞳がイオンを捉えていた。



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