紫陽花
□一章
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約束の日は梅雨の時期にしては珍しく晴天となり、囲うように生える木々の木漏れ日が眩しくさえ感じられるような日となった。ピクニックには最適な日なのに、イオンは膨れっ面をしてユウノの横を歩いていた。拗ねたような表情のまま歩き続ける。
中々口を開かないイオンにユウノは苦笑して顔を覗き込んだ。
「顔、酷いことになってるわよ」
「だ、だって…ユウノ…せっかく早い時間からお弁当作ったのに、ガルドが仕事なんて。私がちゃんと確認しなかったからユウノに無駄足を」
今度は落ち込んだ表情になってしょぼくれるイオンに、ユウノは立ち止まってデコピンをした。いきなりの衝撃にイオンが悲鳴をあげる。おでこをおさえる可愛らしい姿に笑いを堪えながら、ユウノは彼女の頭を優しく撫でる。
「気にしてないわ。私はイオンとピクニックが出来て最高よ!男抜きで楽しもうじゃない」
意気揚々と話すユウノに、イオンは何度か瞬いて。目の前のユウノに思いきり飛びついた。
弁当入りのカゴを片手に持っていたユウノはイオンを支えきれずにそのまま尻餅をつき、その様子に二人は目を合わせ声をあげて笑い合った。それから一拍置いてイオンが慌てて立ち上がり、カゴの中身を確認する。
「よかった、中身無事だ……」
「友達より食べ物の心配をするのね、イオン」
わざとらしく肩をおとすユウノに、ごめん、と笑いながら謝り、二人はまた歩き出した。心地良い風に伸びをしながら、イオンが口を開く。
「ねぇ、ユウノ」
「うん?」
「こんな天気の日はひなたぼっこがしたくなるね」
「そうね」
どこか遠くを見るように目を細めるイオンに違和感を感じたユウノは、普通を装って返事をした。このようなことは、たまにあった。
ーー主に、両親のことを思い出した場合。