短編

□悪夢、秋の風、あのこの声。
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がばっ……

「………」

嫌な夢を見た。

飛び起きた時刻はAM7:00。
急いでケータイを探す。

早く、

早く、

早く、

あのこの声が聞きたい。

不安で仕方ない。



クマのぬいぐるみの下にケータイが埋もれていた。

急いで
あのこの番号を探す。

発信ボタンを
力任せに押した。

プルルルルル…プルルルルル…

コールが続く。

10回目のコールが鳴った。

でも、そのコール音が途切れることはなかった。

仕方なく、電話を切った。





さっきの夢が
嫌でも頭の中を回る。

布団に涙が落ちる。

なんで…あんな夢みたんだ。
あんなこと
望んでなんかないのに……。

もう一度ケータイに手を伸ばす。

その時
着信音が鳴った。

「……!」

ケータイをすぐに開いて通話ボタンを押した。

「も…もしもし…」

受話器から、求めてやまなかった声が聞こえる。

あのこによると、ちょうどシャワーを浴びていて着信に気づけなかったという。


「うん…大丈夫…あのね…」










……ピ。

電話を切る。

さっきまで溢していた涙は引っ込んでいた。

カーテンを開ける。

網戸にしていた窓からさぁっと風が入ってくる。

涼しい。

やっと秋が来た様子。











「嫌な夢みたんだ…」

『どんな…?』

「ふーちゃんと私がケンカしちゃう夢」

『あらら…どうしてケンカしちゃったの?』

「私がいけないことしたの、友達の所に遊びに行って、ふーちゃんを一人にしちゃったの……」

『そうかそうか…』

「でね、ふーちゃん…違う女の子と仲良くなっちゃってたの……」

『そっか……穂果(ホノカ)はそれが嫌だったんだね』

「うん…私が悪いんだけどね……。夢の中でケンカはしたくなかった…」

『大丈夫だよ。穂果。それは夢なんだから。……夢みたいにならないように今度気を付ければいいんだよ』

「……うん」

『あたしは…穂果以外の人になんて、行かないよ。穂果が大好きだもん。もう穂果依存性。だから不安にならなくて大丈夫』

「…うん…ふーちゃんありがとう」

『うん……』







部屋の中を
秋の風でいっぱいにする。

クローゼットを開けて
この間買ったワンピースを出す。



『今日暇なら、こないだ話してたクレープ食べ行かない?』


ふーちゃんからのお誘い。

早く…会いたい。



さっきまで私の中にいた灰色の雲たちは、ふーちゃんの言葉によって綺麗に吹き飛ばされた。

そのまま秋の風に乗って遠くまで吹き飛ばされればいいと思った。

-end-

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