短編

□茶色いかき氷
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「あー…いいにおい……」


今日は夏祭り。

あたし稲田穂里(イネタホノリ)は彼女である皆原夕羽(ミナハラユウハ)と共に、夏祭りの会場である神社を目指していた。

「なにがいいにおい?」


隣を歩いていた夕羽が不思議そうな顔で聞いてきた。

「んー?蚊取り線香のにおいが」

「穂里、蚊取り線香好きなの?」

「うん、あのぐるぐるした形といい、においといい……夏といえば蚊取り線香だよねー……」

夕羽が浴衣の袖を口にあててクスクス笑う。

「なーに笑ってるの」

「だって…蚊取り線香の話してる穂里の顔がふにゃんてしてて面白くって……」

「ほんと好きなんだってー……あ!見えてきたよ!」

あたし達が歩いてる所から小さく焼きそばの屋台が見えた。もう少しだ。

「私かき氷食べたいなー♪」


夕羽が弾んだ声で言う。

「あ、あたしも食べたい」

「シロップかけ放題の屋台ないかなぁ……」

「探してみよ!」


神社に着いて、
人混みに入っていく。

目指すはシロップかけ放題のかき氷屋台。


「夕羽、大丈夫?」

人が多い上に道の幅が狭い会場は浴衣の夕羽にはキツそうだった。

「大丈夫だよ!私毎年浴衣だから慣れた!」

可愛い顔してパワフルな夕羽はそういって笑った。

「無理しないでよ?」

あたしはさりげなく夕羽の手を取った。







しばらく歩いてるとお目当ての屋台を発見した。

「あ!穂里!!穂里!!あった!あったよー!!」

夕羽がはしゃぐ。

まるで小学生のようなはしゃぎっぷりに笑ってしまう。


「早く並ぼー♪」

夕羽があたしの手を引っ張る。ほんと…小学生みたい。






「夕羽さん……あなた、かけすぎ」

「えー?そうかなぁ?」

「ぜったい不味い」

「わっかんないよー?」

15分並んで無事かき氷を手に入れたあたしたちは、神社の境内の近くに座った。

夕羽の手には
茶色いかき氷。

小学生な夕羽は8種類あったかき氷のシロップを全部かけたのであった。

バカだ、ぜったい不味い。


夕羽はニコニコしながら茶色いかき氷を口に運ぶ。

…………………。

沈黙。


「お…おいしい!おいしいよ穂里!さっさすが夕羽スペシャル!」

夕羽……おま…顔ひきつってる。

「バーカ、嘘バレバレ」

「う……」

あたしは夕羽のかき氷を取り上げて、自分のレモン味のかき氷を夕羽に渡す。

「あぁっ!ダメだよ穂里!」

「いーから」

あたしは茶色いかき氷を口に入れる。

…うわ…なんだこりゃ。

「ね!不味いでしょ!?ね!?」


夕羽が茶色いかき氷を取り上げようとする。

「いーから!」

「……ぶー…」

「夕羽が作ったかき氷のほうが食べたい」

「むー……」

夕羽は諦めたのか
しゃりしゃりとレモン味のかき氷を食べ始める。

その少ししょんぼりした姿が可愛らしくて仕方ない。

「あ……」

茶色いかき氷を口に入れようとした時、ほんのり蚊取り線香のにおいがした。

…きっと
神主さんのお家が蚊取り線香をたいてるんだ。





隣には浴衣の夕羽

手には夕羽お手製の茶色いかき氷

そしてほんのり
蚊取り線香のにおい


小さな幸せを感じる。





あ、そーだ
あとで夕羽にレモン味のちゅーでもねだろうかな。

-end-

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