うちは兄弟短編集


□夏祭りの帰り道
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「なーんでお面買ってくれなかったんだよー」

「みんなみたいにさー、お面斜めにかぶってみたかったー」


少しだけ複雑な表情でサスケを見る。 


「兄さんはいっぱい任務してるから、お小遣いだってあるくせにー」

ぷぅっと頬を膨らませる。 


「サスケ…ちょっと待て」

「ん?」

あんまりはしゃぎ過ぎたせいで、浴衣が少しだけ着崩れている。

「これで良し」

サスケはというと、手早く直す兄の姿を少し楽しげに眺めている。


(こんな事なら…)

(もっと暴れたら良かったかな…?)


直した浴衣の着心地がとても気持ち良くて、背中がシャンとした気分になった。


「兄さん、向こうに花火が見える!」

「こらっ、走ると危ないぞ」


ドーン パラパラパラパラ… 


幾重にも広がる光の粒や、流れ落ちる様な色とりどりの光の輪

しばし足を止めて眺める。


「いてぇ…」

「サスケ!だから…危ないと…」

苦笑いしながらも、いとおしげに見る。 


「…直してもらったばかりなのに…またぐちゃぐちゃになっちゃった…」

「ゴメン…兄さん…」


「家までおぶってやるから…」

「ほら」


兄の背中はサスケの指定席


(こんなに楽チンで気持ちのいい場所なんて、他にないや)


「ねぇ、兄さん」

「ん?」

指定席からいつも見える、兄の髪を束ねている赤い紐を眺めていた。 


(何でいつも赤なのかな…)

(まぁ、いいや)


「何でもない」

ヒュルヒュルと音をたてながら何度も上がる花火を見ては 


(家までもっと遠かったらいいのにな…)

(そうしたらもっと兄さんと…)

そんな事を考えてクスクスと、つい笑ってしまった。 


「どうした?」

「なんでもない」
 

「何でもないばかりだな…」


いつの間にか花火の音が止んで、辺りには夏の虫の音が広がっている。 


リーン リンリンリン… 

少し生ぬるい風を、虫達の声が涼やかなものに変えていた。


終わってしまった花火の代わりに

さっきまではあまり目立たなかった月が、明るすぎる程に輝いている。 


「サスケ…」

「月が綺麗だな…」


ユラユラとする兄の背中の心地よさでサスケはその言葉を聞かずに眠っている。


(サスケ…月が綺麗だな…)
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