Book:J.H

□Q1.encounter@
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私の転校先は帝光という名前の中学だった。

独り暮らしの女子中学生なんてそうそういないと思う。

足取り重たく、転校先へと向かう今日。

きっと、何もなく終わるであろう中学生活を一人頭の中に思い浮かべた。

非日常なんて、もう懲り懲りだ。





転校初日はまず自己紹介から始まり、放課になると誰ともわからない新しいクラスメートに囲まれる。

「堺さんあの関西で有名な麗嘉中学にいたんだ〜!凄いね!」

本当に口が滑るとは正にこの事。

うっかりと、私は出身中学の名を明かしてしまった。

放課に成や否や大勢の女子に囲まれ、熱心な部活勧誘の小競り合いに巻き込まれてしまった。

「部活なにやってたの?」

そう聞かれた途端、私の目の前にいた長い髪の女子が声も高々に張り叫んで言った。

「沙絵知らないの!?麗嘉中学の堺小春っていったら、中々の有名人だよ!!」

ええっ!!?っと一同から驚愕の声が漏れた。

「幼稚園の頃から新体操を始めて、中学一年の時には全国大会優勝だよ!!」

何で幼稚園から新体操を始めたことを知っているのだろうかと疑問に思ったが、確か取材か何かにそう答えた記憶が微かに蘇った。

「すごーい!!!じ
ゃ、じゃあ、やっぱりこっちでも新体操部!?」

目をキラキラさせながら尋ねてくる女子の視線が痛い。

「…いや、ちょっと故障していて。完治するまでは…」

「どっか悪いの!?」

一斉にどよめきが広がる。
「…ちょっとね…」

私が曖昧に誤魔化すと、放課の終了を告げるチャイムが鳴った。

内心ちょっとほっとしつつ、次にこの話題になったらどうしようかと一人頭を悩ませた。

そんなとき、私を見ていた人がいたなんて知る由もなかった。




昼放課は、先生に呼ばれているからと嘘をついて教室を離れた。

残念そうな女子の顔があった。

私はそれに構うことなく、何処か一人落ち着いて昼食を摂れる場所を探し求めて校舎をさ迷い、その果てに屋上へとたどり着いた。

初夏のこの頃、日がさんさんと降り注ぐこの屋上で昼食を摂ろうと試みるのはどうやら私だけらしく、だだっ広い白いコンクリートが視界一杯に広がった。

初夏と言えど、まだ東京の方が関東に比べていささか涼しい。

私は、出入り口のドアの近くに座り込んでナプキンに包まれた白いお弁当箱を膝の上に広げた。

蓋を開けて箸を取り出し、いざ食べ始めようとした瞬間、誰かがやって来る気配…
というか、靴音がした。

やっと一人になれるかと思っていたのに。

だが幸い、その靴音は一人分のものであった。

大勢でなければまあいいか、などと考えながら食事を再開する。

比較的料理は得意な方なので、これから毎日弁当を作ろうと思った。

ガチャ。

扉から出てきた人を、反射的にちらりと見た。

燃えるような赤い髪に、左右色違いのオッドアイ。

なんて第一印象の強烈な人なんだろうってついつい思わずにはいられなかった。

私もこの白銀の髪のせいでけっこう目立ってはいるが。

赤髪の人も私の視線に気付いたのか、こちらを見ていた。

「やあ、堺小春さん」

一瞬どきりとした。

決してその笑顔等にではなく、私の名前を知っていたからだ。

「…どちら様ですか」

あからさまに不信感を抱いた私の態度の悪さに目もくれず、にこにこと、何処か悪巧みを考えているような笑顔のまま、近づいてきた。

「僕は赤司征十郎。君と同じクラスだ」

同じクラスの人…。

ならば名前を知っていて当然だ。

だが、私は彼をクラスで見た記憶がない。

これだけの赤い髪の人物なら、一瞬見ただけでも覚えているはずだろうに。

そんな私の心を知ってか
知らずか、彼は話し出した。

「…ああ、きっと敦のせいだろう。僕の席は敦の後ろだから」

敦…?

「敦っていうのは、お菓子をバリバリ食べていた奴のことだ」

ああ…、あのやけに背が高そうな人…。

「…所で、何のご用ですか…?」

先程の様な不信感は払拭されたものの、また新たな不信感が芽生える。

「いや、大したことじゃないが…さっき話していた君の故障の原因が知りたくてね」

その瞬間、私が彼に対して抱いていた不信感が、明らかな嫌悪感に変わったのを感じた。

反射的に眉を潜め、目を細める。

そして、荒々しい手つきでまだまともに手をつけていない弁当箱をたたみ始めた。

「初対面の貴方に言う程のことではないので、失礼します」

自分でも冷たい態度だと思ったが、赤司と名乗る彼がどうして私の故障の原因を知りたいのか、私は直感的に悟っていた。

きっと、人の弱味につけこんで嫌がらせをするような嫌な奴だ、と。

すっくと立ち上がり、そばの彼とすれ違う瞬間、咄嗟に手を掴まれた。

腹を思いきり蹴りあげてやろうかと思ったが、理性によって止められ、代わりに赤司のそのオッドアイを思いきり睨んだ。

「いい目付きをしている」
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