短編
□少女Aの昇格
1ページ/1ページ
私は普通の花屋さん。
プリンプでは唯一の花屋だと思われる。
最近買いにくるお方で毎日薔薇だったりカーネーションだったり百合だったり…とりあえず様々な種類を一本だけ毎日買いに来る人がいる。
「来たぞすみれ」
『いらっしゃい、あやクルさん』
噂をすれば影、ですね。この人が先程述べた毎日花を買いに来る人です。
あやクルさんは服装や顔立ちも華があってとても綺麗な人なんです。
「花を買いに来た」
『はい、今日はいかが致しましょう?』
「じゃあお前の好きな色の花を」
『分かりました、こちらの赤いカーネーションでどうでしょう?』
「ではそれを」
『ラッピングはしますか?』
「いや、いい。」
そのままあやクルさんはくるりと踵を返し、去って行った。
また次の日もあやクルさんはやって来た。
しかし今日のあやクルさんはいつもと違っていた。
『いらっしゃいませ!今日はどの花を?』
「ここにある紅い花を全て欲しい」
珍しい。いつもは一輪だけを買って、ラッピングもせずに帰るというのに……。
『かしこまりました。つかぬことをお聞きしますが……彼女にですか?』
「いや…今日告白するつもりなのだ」
『そうなんですか…』
私はあやクルさんにラッピングした花束を渡した。
思わず私は悲しくなってしまった。……でも考えれば分かる事だ、だって道を歩けば誰もが振り向くような美貌を持っている人だ。
その美貌に見合う人があやクルさんの好きな人なのだろう。
そう考えたら余計悲しくなって思わず右目から一筋の涙が零れた。
「っ!?何故すみれは泣いているのだ?」
『少し、だけ…待っていただけますか?すぐに収まるので……あっ!』
「泣くな、泣いたら私も悲しくなるではないか…」
私は思わず目を見開いた。
……あやクルさんに抱き締められている。
抱き締められたお陰で必死に止めようとしていた涙はダムが決壊したように溢れだした。
『あや…クルさん、優しくなんかっ…しないでくださいよ』
「何故だ、私はすみれが好きなのだ。優しくするに決まっているだろう」
『え、でもこの花束は…?』
「すみれに告白してから渡すつもりだったのだが…」
なんだ…私の勘違い…私はあやクルさんを抱き締め返した。
(単なる少女Aだった私は)
(あやクルさんの彼女に昇格したのだった)