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今年の兄の誕生日プレゼントは、ピアスにしようと決めている。

兄の誕生石である黒瑪瑙のピアス。


(黒って、兄さんにすごく似合う気がする。)

店で見かけた時、瞬は、これだと思った。

意中の品を手に入れるために、密かにお金を貯めた。

無論、プレゼントを用意していることは、兄には秘密だ。
誕生日の醍醐味は、サプライズの計画にあるのだから。

それに、もう1つ、購入を決めたものがある。それは、少し気の早い、自分へのバースデープレゼント。兄とお揃いの形をした、自分の誕生石、ブルーサファイアのピアス。

そう。兄の誕生日の日に、自分も、ピアスデビューするのだ!

ピアスを身に付けたら、少しでも、兄に雰囲気を似せることが出来る気がしていた。

(だって、僕と兄さんは、兄弟なんだし、絶対、どこかは似てる筈なんだ。)


鏡の自分に、言い聞かせる。

だが、目の前に映し出される姿と言えば、細い肩幅に、どんぐり目、こじんまりとした鼻や唇。キッと目付きを鋭くしたところで、兄とは似ても似つかない女顔。

(せめて、同じピアスを身に付けていれば、兄さんに近づける・・かな。)

誕生日当日。

兄の通う学校の前で、放課後、兄を待ち伏せる。

(今日、欠席してなければ良いけど・・。兄さん、気まぐれだからな。)


溜め息混じりに時をもて余しているところへ、運好く兄が現れた。

「瞬、こんな所で何してる?」

「に、兄さんと一緒に帰ろうと思って・・」

「城戸の家に帰るのか?気が進まんな。」

(兄さん・・普段一体何処で寝泊まりしてるの・・?)

物凄く疑問だが、この話は今日はよそう。それより、プレゼントを渡す場所とタイミングが大事なんだから。


「たまには、部屋で僕と話でもしない?沙織さんだって、兄さんに会いたがってるんだから。」

「特に興味はないが、まあ、いいだろう。」

(やった!)

瞬は内心、ガッツポーズを決めた。

兄を、うまい具合に城戸邸へと誘導した瞬。早速、兄を沙織の元へと連れていく。

「あら、一輝。久しぶりですね。ちょうど良かった。実は、貴方に会えないかと思っていたのです。」

沙織とは、事前に打ち合わせをしていた。兄が帰ったら、とりあえず、暗くなるまでの間、引き留めて置いて欲しいと。

沙織は、約束ごとをそつなくこなした。

やがて、夜となり、瞬は、兄をある場所へと呼び寄せた。

「ここは、俺の部屋じゃないか。ここに何の用だ?」

「いいから、兄さん、目を閉じて。」

兄が目を閉じるのを見計らい、瞬はそっとドアノブを回した。

「もう、目を開けていいよ、兄さん・・」

兄が目を開けると、部屋の中は一面星空に溢れかえっている。

「ハッピーバースデー!一輝兄さん・・これは、星矢たちからの誕生日プレゼントだよ。」

「プラネタリウム・・か。懐かしいな。子どもの頃一度見た・・」

「準備するの、けっこうかかったけどね。驚いた?」

「ああ、自分の誕生日なんぞ、忘れていたからな。」

兄の驚きの表情を見て、出だしはうまくいったと瞬は確信する。

「次は僕からのサプライズ。これを、兄さんに。」

丁寧にラッピングされた四角い手のひらサイズの箱を、兄に手渡す。

「開けてみて。」

一輝は訝りながらも、包みをといた。

「これは・・」

「兄さんの誕生石、黒瑪瑙のピアスだよ。これ、絶対に兄さんに似合うと思って・・買ったんだ。」

それにね、兄さん・・。

瞬は、少し声を落として言った。

「僕も、お揃いのピアス、買ったんだ。石は、僕の誕生石だけどね。」

「お前、まさか・・耳開けたのか?」

一輝の表情が途端に険しくなる。

「まだ、開けてないけど・・兄さんの誕生日に開けて、一緒につけようかなと思ってたんだ。」

「・・お前にピアスは似合わない。」

身も蓋もない言い方をしてくる。瞬は、気落ちしそうな心を奮い立たせた。

「そ、そんなこと無いよ。僕だって、ピアス付けたら兄さんみたいに・・」
               
「俺みたいに・・なんだ?」

「兄さんみたいに・・なれるかなと思って・・」

「俺みたいに・・なりたいだと?お前がなれるわけ無いだろう。」

はっきりと断言され、瞬はがくりと肩を落とす。

一輝は、さすがに少し言い過ぎたかと思った。

「瞬、ならせめて、お前が俺の歳になるまで待て。そしたら、付けるのを許す。」

「兄さん・・!」

ピアスを身に付けるのに、いちいち兄弟の許可がいるのかという話だが、瞬にとって兄は親も同然。その権威は絶対だった。    

「サファイアは、お前の誕生石なのか?」

「そう。サファイアにも色々種類はあるみたいだけど、僕はブルーにしたんだ。その方が、男らしいかなと思って・・」

「なら、俺は、そのブルーサファイアの方を貰う。」

えっ?何で!?

瞬は、呆気にとられながら兄を見る。

「お前は、俺の誕生石を持ってろ。」

「ど、どうして?」

「その方が、離れていても、お互いを思い出せるだろう?」


瞬の頬が、色づいたホオヅキのごとく真っ赤に染まる。

やっぱり・・兄さんは、兄さんだ。
何の計算もなしに、人を驚かすことに長けている。

兄さんに近づきたいと願うのは、もう、止めよう。それより、兄さんの一番近くにいれるよう願いたい。

部屋の天井に瞬く星空に、瞬は、そっと願いを込める。


End
 

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