book1
□baby don't cry
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瞬を連れて、俺は結局もと来た道を戻った。
陽は既に半分傾きかけていた。
途中、瞬が「あっ」と声を上げたので、慌てて急ブレーキを踏む。
「なんだよっ急に!」
「兄さん…っ!」
窓の外に向かって瞬が叫ぶ。
「瞬…!」
こっちに向かってガキが走ってくる。
「おじさん。兄さん見つかったよ!おじさんの車ってすごいんだねっ!」
瞬は振り返って声を弾ませた。
「へへっ!まあな。」
車を誉められて得意になっちまった俺って一体…。
結局、俺はただの良い人で終わっちまうじゃねえか。
でも…。
こいつの笑顔にはどうも勝てねえんだよな。
「バカ!何知らない奴の車になんか乗ってるんだ。」
「兄さん怒らないで!おじさんは僕と一緒に兄さんを探してくれたんだ。とってもイイヒトなんだから!」
よせ。背中が痒くなる。
“兄さん”と呼ばれたガキはじろじろと胡散臭さそうに俺を見る。
瞬と違ってこいつはどうも攻撃的だ。もし迷子になったのがこいつだったら、間違いなく放っておいただろう。
服があちこち汚れてみっともねえ。
きっと必死になって弟探してたんだろう。
「兄さん、ここ怪我してる。大丈夫?」
「ああ…でも、財布すられちまって、お前のおもちゃ、買ってやれなかった。」
「おもちゃなんていらないよ!兄さんと会えたんだもの。それだけで嬉しいっ!」
「瞬…」
「それにね。おじさんから誕生日プレゼント貰ったんだよ!兄さんの分もあるんだ。ねっ!おじさん…あれ?」
アホ臭。勝手にイチャコラしてろ。俺はガキ共に背を向けて歩き出していた。イイヒトを演じるのは、やっぱり性に会わねえ。
「待って!おじさん!」
背中に、何かがぶつかった…と思ったら、小さな腕が俺の腰にぎゅっとしがみついてきた。
「ありがとうね…」
後ろから瞬の声がした。
バカじゃねえのか。
ガキに背中から抱きつかれた位でドキドキするなんて。
「もう、泣くんじゃねえぞ。」
「…うん。」
俺から離れた瞬は、まっすぐ兄貴のところへ駆けて行った。
大人を惑わせやがって…。
また攫われてえのか。
抱きつかれた背中が、まだ妙にあったかい…。
あんなに無邪気に慕われたら、悪さなんてとても出来ねえよな。
ガキに振り回されるだけの1日だったが、不思議と嫌な気はしなかった。
また、いつか会えるだろうか。
その時は、また目一杯甘やかしちまうんだろうな、俺。 母性本能が強い蟹座の習性ってやつだろう。
これだから、ガキは苦手なんだ。 調子が狂っちまう。
end
結局ただのベビーシッターで終わるデスマスク(笑)。