白黒神様と時渡人
□八.五篇
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同じクラスの名無しの名無しさんはサッカー部入部試験の時、コントロールし損ねたボールを抜群の破壊力で蹴り返した事から
サッカー部の間では本人をほったらかしで密かに有名になり久遠監督からも一目置かれ、入部させるべく勧誘して来いとまで言われるさまだった
そんなサッカー部でセカンドの司令塔としてグラウンドを駆ける神童は今日も涼しい顔で逃げ回る名無しさんを追い掛け、バタバタと忙がしく廊下を走った
『っ待て名無しの!』
『待てって言われて待つ訳ないだろ、いい加減諦めてくれよ…』
名無しさんは神童の遥か前方をずっと走っているのに息一つ乱さずに後方の神童を振り返り、言った
名無しのの第一印象は落ち着いている、その一言に尽きた。話してみると第一印象通り同級生だとは思えない雰囲気や立ち振舞い
何処か同級生達とは距離があり
大人びていた
雷門に特待生で入り、授業は殆ど聞いていない様に思えるがテストも大分、成績がいい
家庭科で料理を作った時などもはやプロ並みの腕前で、家庭科の教師が教える事は何もないと言ったくらいに
そして何より
名無しのの身体能力は桁が外れていた
『霧野!』
『ああ!』
神童は霧野に合図を送る
少し卑怯にも思えるが予め待ち伏せしていた霧野が名無しのの前に立った、一直線の廊下で挟み撃ちにしたらなら流石の名無しのも捕まるだろうとそう打ち合わせして
だが
『悪いな、っと』
そうもいかないのが名無しのだった
名無しのは側面のコンクリートの壁を蹴り俺達の目線の遥か上を飛んだ、まるで翼が生えているかの様に身軽に避ける名無しのには未だ触れられた試しすらない
俺達ですら目で追いきれない時があると言うのに、一体誰が名無しのを捕まえられると言うのか
『また、逃げられたな』
『ああ…悪いな神童』
『いや、あの名無しのはそう簡単には捕まらないのは予想済みだ』
神童と霧野は全速力で走ったお陰で乱れた息を整えつつ、走り去る名無しさんの背を見送った
『今日も素早かったな名無しの』
『ああ、そうだな凄かった』
お互いに微笑む
久遠監督にでさえ一目置かれる名無しのに
『いつか触れられる日が来るんだろうか』
そう呟いては、また追い掛ける事が日課になっていた
(追い掛ける、追い掛けられる)