白黒神様と時渡人

□九篇
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雷門中学に通い始め
初めての夏を迎えた今日この頃










『…どうするかな…』



場所はスーパー、肝心の名無しさんは、両手に猫のおやつと書かれた袋を抱え真剣に吟味していた




スーパー特有の陽気な音楽が段々耳に付く中、名無しさんは動けずに居る


何故ならコクとハクが普通のご飯にマンネリ気味になってしまったからだ

中身は神様でも今の身体は猫
夏バテだってするし、体調管理にも気を配らなければいけない


そこで普段とは違う物を食べさせてやろうと買い物に赴いた

ものの、スーパーには名無しさんの背丈を
優に越える棚、それにぎっしりと詰められた商品の山

種類が多くて驚いた、と同時に迷ってしまった




『煮干しじゃ何時もと同じだし…でも猫缶もなぁ…』

周りから見れば男子中学生が猫の餌を見ながらぶつぶつ言ってるなんて、不審意外の何者でもないと思うが


如何せん種類が有りすぎる
いっその事、コクとハクに精神世界に入って貰って話しながら決めるか?


『ねぇ、』

『…え?』



スーパーから一度戻らなければいけないので、あまり使いたくはない手段だと立ち尽くしていれば誰かに肩を叩かれた


どうしよう、とうとう不審者扱いされて店員が追い出しに来たんだろうか、このスーパー、せっかく他より安かったのに…



内心、びくびくしながら振り向くと羊みたいな髪型が映った



『ああ、やっぱり名無しのさんだ』

『後ろ姿で良く分かったな青山…』


『一乃…と青山?』



この数ヶ月、サッカー部はめげずにまだ追って来ていたのだがその内俺は軽く躱す方法が身に付き

めきめきと著しい成長をし、素早さが増していた



俺、何処まで早くなるんだろう
そう涙目になっていた名無しさんだったが、目の前にいる同じくサッカー部の筈の一乃と青山は、何故か追ってこなかった

ふと何故かと聞くと多分名無しのは俺達には捕まえられないから、と苦笑していた

初めて友達が出来た瞬間だった




『猫の餌…名無しのって猫飼ってたのか?』

『え、ああ、まぁな』


あの時の感動を思い出し、つい広げた回想を掻き消して首を傾げている一乃に答えた



猫って言うより神様です、とは言えない




『そう言えばさっきから何してるの、何か迷ってるみたいだけど』

『…あーそれなんだが…一乃、青山』

『『?』』

『猫の餌ってどれがいいか分かるか?』





三秒後、何故か吹き出された














『ありがとうございましたー』

店員さんの声を背後にスーパーを出ると、夏特有の熱気と嫌な生ぬるい風が身体を包んだ


『何で笑うんだ…』

『っいや、普段ドライな名無しのが真剣な顔するから何かと思ったら…』

『猫の餌って…っ』

『ドライって、そうでもなくないか?』



ジリジリ照り付ける太陽と焼けるアスファルトの暑さに参りながら未だ笑いの波が残っているらしい一乃、青山と帰路を歩く

そう言えばハクとコクにもこんな風に笑われた事があった気がする



『そう言う所がドライなんだよ、さばさばしてるって感じかな』

『そうなのか…?まぁ、一乃、青山もありがとう、お陰で助かった青山って結構詳しいんだな』



さばさばしている、と言う青山
そうでもないと言うか、男があんまり湿っぽかったら駄目だろうと思うが一乃も後ろで頷いているので心に留めておいた

兎に角、二人にも選んで貰い無事に買えたコクとハクの新しいご飯買い物袋を持ち上げて、礼を言った



『まあ、家も猫飼ってるから』

『青山の家の猫は凄い数だけど…』

『え、そうなのか?』


一乃や青山が凄いと言う、猫の数を思い浮かべたのか青い顔をしながら苦笑した

対する名無しさんは青山と猫、が想像出来ず首を捻る。青山ならどちかと言えば草食動物のイメージがあるが



『最初は一匹だけだったんだけど、そいつが野良猫連れて来ちゃってどんどん増えていったんだ…』

『青山のお母さん、猫好きだもんな』

『そう、全く引き取り手を探さずに全部飼っちゃうから』

『全部って…』



動物は一度に何匹も生むのに全部飼うなんて、段々増えていくに決まってる


目線がどこか遠い所にいっている青山に大変だなと一言、ついでに先程買ったうまし棒をあげた







(何気ない、平穏)

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