白黒神様と時渡人

□五篇
1ページ/1ページ





『あー平和だなぁ…』




名無しの名無しさん、現在四歳
公園で遊び回る子供達(自分も子供)をベンチで眺めながら日向ぼっこに励んでいる


『な?コク、ハク』

『ニャー(そうですね)』

『ニャ…(眠い)』


子供達に見付かると玩具にされるとかで俺の影に伏せているコクとハクに聞くと屋外なので喋らず、他の猫と同じ様に一鳴きした



最も、俺にはきちんと人間の言葉に聞こえるので不便な事はない



まだ話し方は子供のものだが
大分、話せる様にはなってきた最近

密かに毎回、サッカーの中継を見ていたら一年前見事イナズマジャパンが原作通りに優勝した

全員でゴールを守っていたシーンやゴッドキャッチが完成した際にはアニメで見たときと同じ感動があったな




『おい餓鬼!てめぇ俺の車に傷付けやがってただじゃおかねぇぞっ!!』


『え、何だ…?』

『ニャーオ(喧嘩の様ですね…)』

『ウーッ(煩い)』



のんびり、アニメではないこの世界で見た生中継でのイナズマジャパンの試合を思い浮かべながら微睡んでいるとそれに不釣り合いな程の怒鳴り声が聞こえて来た


寝初めていたコクも流石に目を覚ました様で不機嫌そうに怒鳴り声がした方向に低く唸っている



『ちっ……そんなの知るかよ』

『何だその舌打ちは?此処にはお前しか居ないだろ、くそ餓鬼が!どう落とし前つけるんだ!?』



コクと同じ方に目線を向けると大柄の若い男が中学生くらいの男の子の胸ぐらを掴んでいる


男の子はものともしていない様子だが


その隣に駐車してある車には確かに切り傷がついている、若い男は如何にもと言った見た目でお決まりの悪役な台詞を吐いていた



『不良かよ…』

『ニャ(その様ですね)』

『ナーオ(どうする)』

『いや、どうするって言っても…取り敢えず落ち着け』



子供相手にいい大人が、と呆れているとコクがどうすると此方に向く見た所、コクはかなり気が立っている様だった

背を撫でて多少宥めながら周りを見ると昼間の公園にも関わらず大人は疎らだ


唯一、通っていく会社員やおじいさん等は皆、大柄の男を見て見てみぬふりを決め込んでいる様だった

中学生に絡む男、見てみぬふりの大人



名無しさんは目を細めた

…中学生なんてまだ社会から見たら子供だろう、子供は大人が守るものじゃないのか?どうして皆助けない?



自分も今は子供だからなのか妙に苛つきを感じた




『…コクとハクは、待ってて』

『ニャ(名無しさん様?お待ち下さい)』

『ウー(おい、名無しさん)』



コクとハクが静止を掛ける声が聞こえたが気に止めず、大柄の男と中学生男の子の元へ歩いていく


きっとあんな大柄な男は暴力や喧嘩になるとプロレスラーでもない限り勝てないだろう

だから



『ちっ煩ぇな!こっち来い!』

『いってぇな…知らないっつてんだろうが!』

『あの』

『ああ?何だてめぇ』




喧嘩をする必要はない
勝つ必要もない

追い払えれば充分だ


正に今、自分ではないと否定している男の子を車に無理矢理乗せようとしていた男に声を掛けた

男は訝しげに振り向く



『離してあげて下さい』

『何だぁ?助けようってか?ヒーローでも気取ってんのか坊っちゃんよぉ』


男の子がこれ以上引っ張り込まれない様に手を掴むと、男は馬鹿にしたように笑った


『いえ、この人とは友達所か知り合いですらないですが、ただお兄さんにお知らせしたい事があって』


苛つきを押さえ付けて笑顔を崩さないまま言う、端から見たらさぞかし子供らしい輝いた笑顔なんだろう



『な、何だよ…』




『お兄さん此処は駐車禁止なんですよ、そもそも俺ずっと此処に居ましたけどこの人は今通り掛かっただけでしたし…こんな切り傷がつく程の物を所持しているとは思えません

この傷初めからあったんじゃないんですか?それか猫の爪磨ぎにでもされたとか

あんまり大人げない事せずに丸く収めませんか、このまま無理矢理車に乗せたら誘拐ですよ?お兄さん捕まりますよ?』




其処まで一息に言い切って一度
息を吸った



『…監獄行きになりなくないでしょう?お兄さん』


『くそっ…覚えてやがれ!』



終始、表情をキープしたまま
最後にぼそりと呟いて男の腕を強めに掴めば


男はまたまたお決まりの台詞を置いて去っていった、見た目はたかだか四歳の子供なのだから言い負かせられるかどうかは賭けだったが上手くいったらしい

それにしてもあの男も子供に言い負かされるなんて軟弱過ぎると思うが




『……おい』

『はい、』

数秒置いて、我に返ったのか中学生の男の子が俺を呼んだ

くるりと振り返ると







『…あ』

『…お前』

『えっと……お節介なことしてすみませんでした、それじゃ』

『あっおい!』


モヒカンこと不動明王が居ました



早口に言って、背後から呼び止める声が聞こえたが無視して住宅街を走り抜けた







(何で居るんだ)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ