白黒神様と時渡人

□六篇
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ー…、

ー……ま




声が、聞こえる
見知った二つの声





ー…名無しさん

ー、…様











『起きろ名無しさん』

ベシッ

ピピピピピピピピピピピ



『……いっ』



目覚まし時計のけたたましい音と何やら地味な痛みに目を覚ます、ゆっくりと瞼を開ければ直ぐ白い天井と肉球が視界に入った


…肉球?


『む、起きたか』

『…コク、もう少し優しい起こし方はないのか』



額に乗った見た目は可愛いらしい肉球を辿ると黒い毛並み

目線を上に上に上げ、最後に顔に辿り着くとコクが不機嫌そうに俺の額に肉球を乗せていた


直ぐ隣には苦笑しながらコクを止めようと試みているハク

コクは乗せると言うより何だか爪が刺さっている様な気もするが



『いい加減、目覚ましが煩い』

『コクなら自分で止められるんじゃないか?』

『申し訳ありません名無しさん様、私達が止めようとすると何故か壊れてしまって…』


ハクが手に擦りよった
ああ、そう言えばコクとハクは猫の姿でも一応神様だからかもの凄い馬鹿力なんだった


数年前、俺さえも苦労していたスイカを運ぼうとしてハクが手伝うと言って任せたら、持ち上げる所か勢い余って跡形もなく粉砕してしまったことから発覚したのだった、すっかり失念していた


『…あー無理言って悪いな、ハクもそんな謝らなくていいから』

『はい』

『うむ、では早く止めてくれ腹がへった』

『悪い、ちょっと待ってな』


不機嫌なのは空腹だかららしい
コクに少しお預けをして、熟睡したお陰で妙にすっきりした思考のままカーテンを開く


途端に射し込む朝特有の柔らかい日の光、爽やかな朝ってこういう事を言うのだろうか、起きたてに見たものは肉球って全く爽やかではないが



『よし、準備するか…』


未だ鳴り続けたままだった目覚まし時計を止めて、後ろにコクとハクが続いたのを見てからのそりと起き上がった


『あ、コク、ハク』

『何でしょう?』

『何だ』

『…おはよ』

『はい、おはようございます名無しさん様』

『む、おはよう』



相変わらず行儀良く挨拶を返すハクと、よっぽど腹が空いたのかそわそわしながら云うコク

その二人の、いや二匹の猫のギャップが可笑しくて朝から笑顔が零れた








真新しい学ランに着替えて朝ご飯におにぎりを握ってついでにお弁当も、コクとハクの食事も用意する

『ほらコク、ハクもご飯な』

『む、』

『コク駄目ですよ、先ずはいただきます、からです』

『いただきます』

『はい、名無しさん様いただきます』

『ああ、どうぞ』


相も変わらずしっかりしているハクに感心しつつ、コクとハクの頭を人撫でした


もはや日常化された動作をしつつ今日の天気やら、ニュースやら最近の流行やら至って関係ない情報を伝えるテレビ画面を
猫缶に夢中になっているコクとハクを横目にぼんやりと見る


何だかんだコクが起こしてくれたお陰でまだ時間があるので少し振り返ってみよう


あれよあれよと、あっという間に月日が流れ。そう、俺は数日前ついに中学生になった


実家、此の世界での家は三歳くらいの時は認識する事が出来なかったが実は愛媛にあったらしい、どうりで不動明王に遭遇する訳だね

あの後は徹底的に遭遇するのを避けていたから、さして問題はない…と思う



そして何故俺がコクとハクを連れて一人暮らしの様になっているのか



それは中学生になる少し前
元々、両親は私立でも公立でも好きな中学へ行けば良いと言った

俺はあわ良くば雷門に行きたいなくらいに思っていたので両親の好意は有り難かった

流石、凄いな美形夫婦、と思ったのは心の内にしまっておく




ただ、悲しい事に前の年齢と足すと中身がとっくに三十路に近付いている俺だから分かるが、やはり私立の雷門は高い、余り負担を掛ける訳にもいかない


そこで思い切って中学には珍しい奨学生制度のある雷門に助かったと思いつつ受けた、勿論頭脳は大人だ、結果は見事合格

その時ばかりは全国の受験生に土下座をした、卑怯でごめん



そんな忙しい小学生生活を経てコクとハクを連れ、なるべく家賃の安いアパートを見つけ、一人上京したのだった



『めでたし、めでたしっと』

『何が"めでたし"なのだ?』

『あー…生まれてから此処まで何かあっという間だったな、と思ってさ』


猫缶を食べ終え満足そうなコクが膝の上に乗ってくる。毛繕いをしてクッションの側に伏せていたハクも呼ぶと、素直に此方へ来た


『あっという間、と感じるのは名無しさん様の精神は大人のものだからでしょうね』


『子供の時は一年が長く感じるもんなのにな、俺も年とったのかな…あ、今日のワンコ可愛い…』



ハクも纏めて抱きながらニュース特集らしき声が流れるテレビをチラリと見れば今日のワンコと言うコーナー名が出ていた、つい声に出すとコクが急に耳を忙しく動かし始めた



『?、コク?どうしたんだ』

『何もない』

『…名無しさん様は犬の方がお好きなのですか?』


そっぽを向いてしまったコクに首を傾げればハクが尻尾を項垂れさせて俺を見る

ああ、犬が可愛いって言ったから拗ねてるのか



『んー犬も良いけど、俺は猫派だな。特に白くてふわふわの毛並みと黒くて艶のある毛並みの猫』


本当に時々、神様相手と言う意識がなくなってしまうなとコクとハクを撫でると尻尾が忙しく上下していた


多分、嬉しくなったんだと思う

膝に収まったコクとハクを結局、時間ギリギリになるまで撫で回していたのは言わずとも分かるだろう








(家の猫、もとい神様が愛らしい)

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