白黒神様と時渡人

□三篇
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あれから数刻、もしかしたら数分しか立っていないのかも知れないが、光が射し込まず電気なんて物も無いはずなのに何故か明るく感じるこの空間で俺は何故か神様二人に説明を受けていた



『さて、主が此処に辿り着く前に云ったと思うが此所は狭間の世界』


『その名の通り色々な世界と無限に繋がった場、世界と世界の繋ぎ目でもあります、此処では時間等がありません』


『へぇ…だからさっきから時間感覚が曖昧になってるのか』


『普通、人間は此処には来られない人間の考えで云うならば、天国も地獄も生と死さえ干渉出来ない異界空間だ』


『ただ俺は恩人と言う名目で此処に来られた、と』

『その通りです』


場所や何故此処にいるのか、等の事細かな詳細を分かり安く噛み砕いて理解、記憶していく

いや、その前に言わなければいけない


この状況に順応し過ぎていたがまず説明するだけなら良いのだ
此方だって自分が死んだと言う事意外にも知りたい事が山ほどあったのだし

だが



『なあ…今更だが何で俺はお前らの真ん中に挟まれて挙げ句、手を握られたままなんだ』


右隣に行儀良く座った白い奴と
左隣に胡座をかいた黒い奴を交互に見ると


『『主(様)が気に入ったから(です)』』


さも当たり前だと言う様な顔でサラリと答えられてしまった。
わざわざこんなに広い空間で俺の隣に座るなんて意味が分からないが


『…言っても無駄か』

『良く分かってるじゃないか』

『流石、主様は理解力がおありで』

『はぁ…』

名無しさんはついため息を一つ溢すと力が抜けた様に項垂れた、
ああ、ため息ついたら幸せが逃げるじゃないか俺の幸せ戻ってこい


その間神様二人はにこやかに微笑む、何この神様怖い、俺はいつの間に懐かれたんだ


『ま、いいんだけど…取り敢えずその"主様"呼び止めないか落ち着かない』

『あら、主様は主様ですので』

『うむ』

『いや、そうだけど俺には名無しの名無しさんって言う名があるからな、名前で呼んでくれ』


そう言うと神様二人は何やら顔を見合せ考え込んでいる様子だったが数秒すると再び此方を見た

『名無しさん様』

『名無しさん』

『うん、その方がいい。そう言えばお前らの名前は?何時までもお前なんて良くないだろうし』


何時も従兄弟に良くやっていた様に神様二人の頭を撫でた、此だけ見ると神様相手に大分罰当たりな事をしていると思う

そのまま流れで名を聞けば二人は名は無い、と云った


『…名前無いのか?』

『我等は神の中でも特別だからな名は無いのだ』

『呼び名も?』

『ええ、常に移動している私達は余り人間には知られていませんし』

『そう言うものなのか…』


神様は事情も複雑で意外と大変なのだなと感心する反面、名前かせめて呼び名でも無いと不便だろうと自然に脳内を模索する

白と黒の神様二人
白と黒

それで連想するもの
それか他の読み方…


『ハク、と…コク』

『ハク?』

『コク…?』

『お前らの名前、名前が無いと呼ぶ時に不便だから』


名無しさんの呟いた言語に不思議そうにしていた神様二人に、白い着物の丁寧な口調の神様はハクで黒い着物に紅い目の神様はコクだと付け足した


『まあ、嫌でなければだけど』

『有り難く頂戴致します名無しさん様』

『我もその名を頂こう』

『え?あ、そうか早いな』

随分と素早い回答にたじろいでしまったが神様二人、もとい無事名前が決まったハクとコクは些か満足そうに見受けられたので良しとしよう


『やはり名無しさんを、此処に連れて来て良かった』

『ええ、名無しさん様をそのまま天界や下界に渡してしまうのは勿体ない』

『ああ、そう言えばハクとコクは何の為に俺を此処に…』


満足気のまま嬉しそうに笑む二人を見て、数行前に説明を中断させてしまった事を思い出す、此処に来てから色々あり過ぎて時間感覚だけでなく気も逸れ安くなっているのだろうか


『輪廻転生と言う言葉は一度くらい耳にした事があるだろう』

『まあ…』

『私達は恩人である名無しさん様のお人柄を見て、良いと判断したならば輪廻転生を、生をもう一度与えようと決めておりました』

『もう一度、か』




輪廻転生、未だ元気だった祖母から聞いた事はあった

"人はいつか死を迎え土に還る
ただ魂だけは何年、何百年の時を経て巡りまた新しく生まれる"と

先に逝ってしまった祖父とまた巡り会う事もあるかもねぇ、と祖母は穏やかに笑っていた事を思い出す


『…それにしてもわざわざ色々な世界に繋がるって言う此処に連れて来たんだ、単に俺の元居た世界に転生出来るって訳じゃないんだろ?』

鋭いな、とコクが頷いた
ハクも少し驚いている様にも見える


『我等は輪廻転生させられる程の力を持つ神だが、万能ではない』

『勘づかれていらっしゃるでしょうが何かと神の中にも決まりがあるのです』

コクは除き、申し訳なさそうにしているハク


『いや、攻めてる訳じゃないんだ、また元の世界で生きたいとかそう言う望みはないしな…ただどんな所に転生するのかと思って』

悪い事をした気分になって
名無しさんは慌てて手を降った


『そうですね…元の世界には転生出来ない決まりではありますが、その代わり名無しさん様や元の世界に関連のある世界を選んでおきました』

『つまりは行けば分かる』


この短時間で随分慣れてしまったコクの不敵な態度だが
また簡単と言うか適当と言うか…


『あ…ハクとコクは此処に居るのか?』


『私達は初めは名無しさん様の精神世界をお借りしてお供致します、頃合いや場合によっては猫の姿にもなりますが…転生した後の処理も何かと必要でしょうから』

『我等が付けば鬼も逃げ出すぞ』

『コクそれは大袈裟では?』

『本当の事だ』

『あー俺を挟んで言い合いするなよ…分かったから、兎に角頼んだコク、ハク』


対になると言っていたが性格は似なかったらしいコクとハクの、放っておけば何時までも続くであろう頭上で繰り広げられる言い合いを止めて繋がれたままだった手を引いた


『お任せ下さい名無しさん様』

『む、では目を閉じろ』

ハクとコクは完全に此方に気が向いたのか、言い合いを止め
目を閉じろと云った

その通りに従うと瞼に二人の手が乗せられたと思われる感覚がある

『いってらっしゃいませ』

『異世界へ』

ぐらりと身体が傾いた

力が抜け後ろに倒れる、水が跳ねる音を聞いたあと一瞬だけ腹が浮く様な大きい浮遊感を感じた

だがそれはほんの数秒の事で
すぐに暖かい何かに包まれる
身体が完全に浮くと本能からか
多少の衝撃を予測してしまうが対して痛みもなく拍子抜けする

まるで生暖かい海に浮かんでいる様だと身を任せてみる

と同時に目を開いてもいない中でも分かる溢れんばかりの光が視界を覆った




ーあともう少しっ頑張って!

ーもう一息ですよ!深呼吸して…


光はまだ射し込む
眩しくて眼を開けられずにいれば切迫詰まった声が色々な所から聞こえて来る、何だか前にテレビで見た御産の時の声に似ている


とっくに分別のつく年齢である名無しさんは羞恥等は特に覚えず、寧ろ頑張れ妊婦さん、とエールを送った


もう眼が開けられそうだ



ーおぎゃあ!おぎゃあ!!

ー生まれましたよ!元気な男の子です!

ー私の子供…

ー良く頑張ったな…

ーこれから宜しくね、名無しさん


視界が開けた先に待っていたのはこれまた驚く位の美形夫婦が
何故か口から母音しか紡ぐ事が出来ない俺を抱き上げ、幸せそうに笑っている光景だった





(転生って)

(よりにもよって此処からなのか)

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