過去夢A

□アンブレラ
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スバル君の後ろ姿をよく観察してみると、服は雨に打たれた部分が濡れて色が濃くなっているし、髪もしっとりとボリュームダウンしていた。

こんなに至近距離に来てしまっては、もう声をかけるしかない。



『――す、スバルくんっ!』


「あ!?……何だユイか」



スバルくんは一瞬、喧嘩でも売られたように不機嫌な声色で返事をしたけれど

私の顔を見たら少しだけ声色がやさしくなったような……気がした。


そしてゆっくりと振り返ったスバルくんと目が合って


『……っ!!』


一瞬、見とれてしまった。


「んだよ。人の顔じろじろ見やがって」



雨に濡れたスバルくんは、すごく色っぽいというか艶っぽいというか……

髪が頬に張り付いてたりとかして、とにかくいつもの数倍かっこよかったのだ。


ここまでくると、もう白状しなければいけないのだけれど

私は前からスバルくんが気になっている。



普段から、銀色になびく髪の毛とか白い肌とか、切れ長の眼がきれいだと思っていたが

それが濡れるといっそう色香が増すなんて。

水も滴る何とか、とはまさにこの事か。


危うくそれを口にしてしまいそうになったけれど堪えた。

いけないいけない、女子力というものがなさすぎる。




『……あの』


わざわざそんな美しい姿を晒して歩くなんて、何て罪な人だろうと思いながらも(人じゃないけど)


雨の日に2人で下校 一方は傘なしという絶好のシチュエーションを逃すまいと

勇気を出して、さりげない形で相合傘を申し出た。



『よければ私の傘入って…』

「うぜえな。誰が入るか」

『でも濡れちゃうよ』

「別にいい」



濡れることを気にしないなんて、まさか

スバルくんってば濡れた自分の美しさを知っててワザと雨に打たれているの!?

だとしたらますます罪深い。


とにかく、このまま濡れたスバルくんを放っておくと危険だ。

風邪をひく可能性もさながら

また綺麗なお姉さまに逆ナンパされてしまう危険性がある……!!




『じゃあ私も入らない』


「は?」



私は強行手段に出ることにした。

スバルくんが実は優しいことを私は知っている。

きっと「お前が風邪ひくと血が不味くなるからな」とか言いながら

仕方なしに相合傘してくれるに違いないと思ったからだ。


しかしスバルくんは一瞬だけ私を気にする素振りを見せてくれたけれど

そのまま「勝手にしろ」と吐き捨てて、そのままズカズカと歩いて行ってしまった。



『あら……?』


作戦失敗した私の頭上に容赦なく振り続ける雨。

優しいスバルくんは何処へ――。
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