過去夢A

□本能
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スバルはユイを膝の上に座らせ、最も身体が密着する形で再び肩から吸血を始めた。


「……んんっ……くっ…」

『ああっ!……ふ……んんっ……』



これまで経験したことのない位の激しい吸血だった。

脇の下から入れられたスバルのたくましい腕が、ユイの背中を自らの胸へ押さえつけ

ユイは自らの意志では体制を変えることさえできない。

耳の奥にはスバルがゴクゴクと喉を鳴らす音が響く。



血を吸われるのも、こうしてスバルと触れ合うのも前の満月以来だった。

ユイはなるべく声を出さぬよう唇を噛みしめていたが

久しぶりの感覚に瞳は潤み、身体は求められる喜びにビクビクとうち震えていた。

声を我慢する分、感覚が研ぎ澄まされて


「……くっ……やらしい反応するんじゃねぇ……っ…」


声にこそ出さないものの、「もっと吸って」と全身で叫ぶユイの姿に
スバルは嗜虐心をそそられ、ますます深く、激しくキバを突き立てる。


――グチュッ…ジュルッ……ジュ、ジュ……


「…お前の望み通り、もっと……吸ってやるよ………」


『……あっ……』


耳元で低く囁かれると、ユイは体の内側から熱くなっていく。




スバルはがっしりと固定していたユイの身体を離し
既に胸元まで下されていたユイの服をビリビリと両手で裂いた。

そして自分の着ていたシャツのボタンにも手をかける。

その何とも妖艶な仕草に、ユイは目を奪われていた。


「こんなもの……邪魔だろ」


スバルにとっては、重なろうとする2人を遮る衣服も、皮膚さえ邪魔だと思った。
お互いがお互いの一部になれば、わざわざ服を破いて、皮膚に穴をあける必要もない。
ユイの心臓からドクドクと溢れる血が、そのまま自分の中に注ぎ込まれればいい。

スバルの体だけでなく全て、魂までもがユイと一つになりたがっていた。


「…はぁ…ッ……ユイ」


息を乱し、目を血走らせ、極度の興奮状態で苦しそうなスバル

ユイは涙を滲ませた瞳で、そんなスバルの顔を覗き込む。


『スバルくん……大丈夫?』


一気に大量の血を奪われ、半ば意識も朦朧とし始めているというのに、ユイは自分よりもスバルが心配で堪らなかった。


ユイの血で汚れたスバルの顔を両手で包むと、スバルも泣きそうな顔でこちらを見つめた。


「……かまうな。俺に」


どんなに酷いことをしても自分を受け入れてくれるユイ
スバルはそんなユイの優しさが愛おしい反面、怖かった。

その優しさにこうして甘え続けていれば、いつか必ず自分はユイを壊してしまうからだ。


ユイと初めて出会った頃「お前の全てをぶっ壊してやる」と言っていたスバルも
今はもうユイを壊すのも、傷つけるのさえ嫌だった。


だからこそ吸血を我慢し続けていたというのに
満月の夜だけはその衝動を抑えきれない。

頭ではいけないと思っていても、身体が勝手にユイの匂いのする方へ出向き、こうして滅茶苦茶にしてしまう。



「……クソッ!……何だってこんなに……」


こんなに一人の女に執着したのは生まれて初めてだった。

その血を求める欲望も、日に日に大きく膨らみ続け、底が見えない。


――守りたいのに、壊したい。



いったい何が本当の自分なのか。本物の自分の気持ちはどこにあるのか。

血を求める本能に躍らされ、目の前のものを傷付けるだけの、自分はただの醜い獣ではないか。

行き場のない感情をぶつける様に、ユイの白い胸元に深く噛みついた。

ユイの身体がまた跳ね上がる。


『……っ……あっ………く…』
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