過去夢A
□アンブレラ
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予想外に授業が早く終わった日
いつものリムジンに乗らずに、歩いて逆巻家へ帰ることにした私。
校舎から出てしばらく校庭を歩いていると、頬にポツリと冷たいものが当たるのを感じた。
『……雨?』
立ち止まって周囲を見渡すと、傘をさし始める人や、カバンを頭に乗せて走り出す人。諦めて校舎へ引き返す人――
辺りがやけに暗く感じるのは、雨雲が月を隠していたせいだろう。
私はカバンに常備してあった小さな折りたたみ傘を取り出す。
ずっと入れっぱなしにしてあった物だけど、役に立って良かった。
広げた傘を右手に持ち、再び歩き出す。
人通りの少ない小道に入ったあたりで、見慣れたうしろ姿を見つけた。
『あ、スバルくんだ』
長身で銀色になびく頭は暗闇でも目立つ。
それに加え、雨の中で傘をさすわけでもなく、かといって帰路を急いだりしていない。
まるで雨など気にしない素振りなのが気になった。
『どうしよう。声かけようかな』
この場合、傘に入れてあげるのが妥当だと思う。帰る先は同じなのだし。
けれどスバルくんの性格からして「余計なマネすんな」とか言って怒られるかもしれない。
しかし雨に打たれて寒くないのだろうか。
いや、そもそも風邪なんかひかないのか。ヴァンパイアだし。
ここ数週間の逆巻家での生活から、ヴァンパイアというものがいかに万能な存在なのかを思い知らされていたのだ。
――まさか、ヴァンパイアの力で、本当にスバルくんの周りにだけ雨が降っていないとか!?
そうだ。空を飛べたりできるくらいのヴァンパイアだ。
スバルくんは普段からただならぬオーラを発しているし
自らの周りに雨除けのバリアを張ることもできるのかもしれない……!!
あれこれと考えを巡らせていたら、私の両足は予想以上に速く進んでいたらしく
気が付いたらスバルくんのすぐ後ろまで来てしまった。