過去夢A

□本能
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ただれ落ちそうな満月が、煌々と闇夜に鎮座する夜

スバルはユイの部屋の扉を叩き破るような勢いで開いた。



「……ッ…ユイ」

『スバル……くん?』

獲物を捕らえるような、鋭い眼差し。
我慢し続けていた一ヶ月間が爆発したように、彼女を押し倒した。

―――もう 限界だ。




『ま……まって…』

「――無理だ……っ!」

『……ッ…………』



初めは訳が分からず抵抗していたユイだが、窓の外を見た瞬間
スバルの行動の意味を理解した。



『……あぁ…そっか。満月……だね』

スバルの肩を押し返していた両腕をゆっくりと放した。




ちょうど一ヶ月前のこんな満月の夜も、こうしてスバルに組み敷かれたのを思い出したのだ。

半ば諦めたように微笑んだユイの顔を見て、スバルの心は掻き乱された。

これ以上苦痛にゆがむ顔を見たくなくて、ユイの身体をひっくり返し
後ろから抱きかかえるようにして、背中に噛みついた。


「……ッ……んっ!……」


『…あっ!……んん……』


覚悟していても、キバを刺される最初の瞬間は思わずユイの口から声が漏れる。


ジュル……ジュ、ジュ……

真っ暗闇で、2人の激しい息遣いと水音だけが部屋に響いていた。


ただ感じるのは、背中ごしの息遣いと熱い痛み。

スバルが一体どんな顔で自分の血を吸っているのかさえわからないユイは、痛み以上に大きな不安に襲われた。



『スバルく…ん。……こっち向いて』

「……んっ……んっ…」



ユイの声など聞こえていないように、スバルはひたすら流れ出す血を飲み続けた。


『お願い……恐い…から』

「……ッ!」

今にも泣きだしそうなユイの声に、一瞬正気を取り戻したスバル。


「……悪い」


ユイの背中から唇を離し、正面からぎゅっと抱きしめる。

やっとこの身に感じられたスバルの温もりに安堵したのか

ユイはホッと胸をなで下ろす。
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