過去夢A
□蜜
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どうして
彼を選んでしまったのだろう―――。
込み上げる後悔も今は無駄だと言わんばかりに、ベッドへ押さえつけられたユイは身動きが取れない。
『やっ!やめて……、カナト……くん』
「……何の警戒心もなくこの部屋にやって来たのは、君でしょう?」
身を包んでいたはずの寝巻きはビリビリに裂かれて、すでに原型を留めていなかった。
『それ、は……』
確かに自らカナトの部屋を訪れたのはユイだった。
「ぬいぐるみを抱いて、お菓子を好んで……こんな僕が乱暴なことするはずないって、そう思ったの?」
『……っ……』
ユイは何も言い返すことができなかった。
カナトの言うこともあながち間違ってはいないからだ。
“この中の誰かから吸血される”
自ら「選ぶ」と言ってはみたものの、そのような恐ろしい行為、想像もつかなかったユイ
とっさに兄弟の中で最も小柄で柔らかな雰囲気のカナトを選んでいたのだ。
しかし今、凄まじい力でユイを押さえつけているカナトは彼女の想像していた人物とは全く違っていた。
奥に欲望を滲ませながらも、軽蔑するような冷たい視線
可愛らしい口からはユイを罵倒する言葉が溢れ
力強い腕の感触は、嫌でも彼が“男”であることを実感させられる。
「僕がこんなものを持ってるのも……意外?」
カナトはうっすらと笑みを浮かべながら、懐からナイフを取り出した。
月光に反射しキラリと光るそれは、まぎれもなく本物の刃。
破れたスカートからのぞくユイの太ももにその刃があてがわれると、金属のヒヤリとした感触に全身が強張る。
『……っ!……』
ピクリと震えるユイの反応を見たカナトはいっそう口角を上げた。