過去夢A

□アンブレラ
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・・・・数分後・・・・



――さ、寒い……


前髪からポタリと落ちるしずくを見ながら、私は早くも後悔した。

雨に打たれるのなんか、小さい頃に何度も経験しているしへっちゃらだと思っていたのに

今日の雨はまるで氷のように冷たく感じた。


『……』


寒さで全身が震え、歯がカタカタと音を鳴らす。

まずい。これでは明日絶対に風邪をひく。



私はまだ右手に持ったままの傘を見つめた。

傘を持ちながらもそれをささずにブルブルと震えているというのはとても滑稽だ。


けれど諦めて再びこの傘をさすのも私のプライドが許さない。

もういっそこの傘を捨ててしまおうかとも思った時だった。



「――おいお前!」


前を歩いていたスバルくんがこちらに駆け寄ってきた。

何事かと思いスバルくんを見上げると

とても呆れた顔で、はぁ、ため息をついて私の手から傘を奪った。

そして私の頭の上で、ガバッと乱暴に傘を開く。




「お前が濡れようが風邪ひこうが俺には関係ねえが……」



スバルくんは私をじっと見つめ、それからフッと視線をそらした。


「……自分のカッコ見てみろよ」



私は自分の胸元を見てみると


ブラウスが濡れてぴったりと体に張り付き
そこから下着が透けていた。


『……わっ!』


私は慌てて両手で胸を覆う。

しまった。スバルくんにばかり見とれて自分の姿など気にもしていなかった。

といってもよくマンガであるような、男の子がドキドキするようなものでは全くなく
ただ下着が見えているという大変だらしない恰好である。

このままだと胸元にレースのあるブラであることが丸分かりである。


私は体中の熱が一気に顔へ集まるような感覚になり、立ち止まった。

その間スバルくんはめんどくさそうにしながらも、傘をさして待っていてくれる。


「おい、さっさと歩け」

『む、むり……スバルくん先…行っていいから』


恥ずかしくてまともに前を向いて歩けない。

誰も私なんか見るはずない。
自意識過剰だと分かっているはずなのに、どうしても
すれ違う人皆が私の事を笑っているような気がしてしまう。



せっかくスバルくんが、あのスバルくんが傘をさして待っていてくれているのに
そして念願の相合傘が成立しているというのに

情けないやら恥ずかしいやら申し訳ないやらで、私はますます身を固くする。


――その時、肩にふわりとした重みと温もりを感じた。



『……っ……?』


「それで隠せ」

よく見るとそれはスバルくんの制服のジャケットだった。

サイズの大きなそれは私の身体をすっぽりと包んでくれる。
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