第1章:侵掠の彗星(白色彗星帝国戦役編)
□執務官の驚愕
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「――!?」
「何ですって!?」
オペレーターの声に、思わずモニターを見た。
全てのミサイル艦から、艦首の超大型ミサイルが1隻あたり2発、合計約60発が一斉に放たれた。
「あのミサイルが『ワクラ』を‥‥?」
シャーリーが嫌悪感も露わに呟く。
あれだけのミサイルの飽和攻撃なら、『ワクラ』が消滅してもおかしくはないだろう。
第1波攻撃ではたいした損害を受けなかったように見えたあの艦だが、さすがにあれだけのミサイル相手では持ちこたえられないだろう。
「まずい!逃げろ!」
あの艦に向けるようにクロノが叫んだが、オペレーターからの報告は予想を完全に覆す内容だった。
「奥の艦のエネルギー反応が急激に増加‥‥エネルギーゲージが振り切れましたっ!」
「何!?」
急激なエネルギー増大、つまり何らかの超高エネルギー砲による反撃だろう。
そして『クラウディア』はミサイル艦隊の真後ろにいる。
あの艦の目標は当然手前のミサイル艦隊だろう。
ということは…。
「いけない、クロノ!」
「わかっている!艦首下げ60!!40に達したら全速前進!
スラスターがいかれてもいい!かわせっ!!」
『クラウディア』は急ぎ艦首を下に向けた。
直後、あの艦がいるあたりで閃光が走ったかと思うと、膨大な光の柱が襲い来た――。
次の瞬間、艦尾部に大きな衝撃を受け、艦が大きく震えた。
「被害報告、急げ!」
「艦尾装甲、一部剥離及び破損!」
「第2食糧庫に火災発生しました!」
「消火急げ!左150に回頭!」
『クラウディア』の損傷は小さくなかったが、次元転移は可能だ。
しかし、この空域に留まることはリスクが大き過ぎるだろう。
――そういえば、あのミサイル艦隊はどうなったのだろう?
オペレーターに確認したところ、
「ありません。――1隻残らず消えました。
‥‥空間転移の形跡もありません」
信じられない報告が返ってきた。
「あれだけのミサイル艦隊を、たったの一撃で消滅させたというのか!!?」
「そんな‥‥」
「信じられない‥‥」
クロノも信じられない口調だ。
事実ならば、あのエネルギー砲は『アルカンシェル』すら比較にならない、文字どおりの大量破壊兵器だ。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「この空間を離脱。一旦第4海上支部に入って修理する」
どのみち、あんな力がある艦とやり合うなんて無謀極まる。クロノはこの空域からの離脱を命じた。
「提督、あの艦は危険過ぎます!停船の上臨検するべきではありませんか!?」
クレスタ・アーネスト一等海尉が立ち上がり、ミサイル艦隊を葬り去ったあの艦への臨検を主張するが、ブリッジの空気は冷ややかだ。
クレスタ一尉は魔導師としても艦船乗りとしても有能なのだが、管理局による世界管理こそが平和を齎すと頑なに信じており、管理外世界を下に見てしまうところが玉に傷だ。
「あれだけのミサイル艦隊を一瞬の間に消滅させた艦だ。矛先がこちらに向いたらどうなるか、十分わかると思うが?」
「どのみち、あのエネルギー砲以外にも飛び道具は持っているでしょうしねぇ‥‥」
「‥‥わかりました。申し訳ありません」
「わかってくれたなら、それでいい。修理が済み次第またここに戻るが、念のため、はデータ収集ポッドを置いていく」
窘めるように言うクロノに続き、アレックスが肩を竦めながら言うと、クレスタもその意味を理解してくれたようだ。
――2時間後、次元空間、『クラウディア』ブリッジ――
「‥‥今にしてみると、もったいないことをしてしまったかな?」
「何が?クロノ」
お茶を口にしながらクロノが残念そうに言った。
「ミサイル艦隊を一掃したあの艦さ。あの艦の乗組員と話をしてみたかったよ」
「そうだね。でも仕方ないよ‥‥」
本音は私もそうだった。
ミサイル艦隊はともかく、あの艦にはなぜかさほどの不安は感じなかった。
あの艦とコンタクトは取れなかったが、消滅したミサイル艦隊の隊内通信データを傍受しており、今解析中だ。
海上支部に到着するや、ミサイル艦隊のデータ解析が終わった。
その結果、ミサイル艦隊は、あの艦が発射した超高エネルギー砲撃で全滅したと確認された。
また、ミサイル艦隊内の通信の中に、何度となく『ヤマト』という単語が出ていたことも判明した。
『ヤマト』??
日本に住んでいた私も、その発音は何度となく耳にしている。
あの艦はヤマトというのか?
とても気になる。しかし、私が知る今の地球に、あんな宇宙戦闘艦を建造する技術は存在しないはずだ。
どういう事なんだろう‥?
――その謎が解けるのに、更に数ヶ月を要した――。