第1章:侵掠の彗星(白色彗星帝国戦役編)

□主砲全開!目標ヤマト‥‥‥‥マジ?@
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   ――『アンドロメダ』艦橋――

「何をしている、もっと増速しろ!」

副官が焦った声を上げる。

小惑星帯に入った途端、『アンドロメダ』は『ヤマト』『白根』に引き離された。それこそあっという間に。

正確には、『ヤマト』『白根』が速度を維持したまま小惑星を走り抜けてているのに対し、『アンドロメダ』はセミオート操舵のため、こういう障害物だらけの空間では回避優先になり、減速してしまうのだ。

その時、艦首が微小惑星に接触したか、ドーンという音響と衝撃が艦を震わせる。

「うわ!?」
「‥‥‥‥」

ブリッジが揺れ、副官が自分の席につこうとして転倒するが、艦長席の土方は腕を組み、瞑目したまま一言も発しない。

(‥‥ちくしょう‥‥)

航海長は焦慮と屈辱に顔を歪ませていた。
『ヤマト』と『白根』。あの2隻は明らかにフルマニュアルで操舵しながら速度を維持しているのに、自分にはできない。

カタログデータでは『ヤマト』はおろか、ドレッドノート級主力戦艦をも上回る加速能力と軽快な機動性を持っている『アンドロメダ』の性能を十分発揮できていないのが明らかだからだ。

彼の名誉のために書き記すが、仮にも総旗艦の航海長に抜擢される程であるから、十分優秀なのである。
しかし、実戦で鍛えられた手練れの舵取り2人を相手に回しては余りにも分が悪い。

(‥‥ふむ、あいつら、なかなかやるじゃないか)

土方は内心で島と近藤に高評価を与えつつ、航海長に指示を与える。

「慌てるな。2隻のペースに乗せられることはない。『ヤマト』の追尾は『白根』に任せて、確実に小惑星帯から出ることを優先しろ。
『アンドロメダ』の船脚なら十分間に合うはずだ」
「‥‥了解しました!」

航海長はいくらか落ち着きを取り戻した。


   ――『白根』艦橋――

目の前に再び星の海が広がる。

「小惑星帯を抜けました!」
「艦の損傷、ありません!」
「‥‥よし、『ヤマト』の位置は?」

幸い、艦の損傷はない。
冴子は『ヤマト』の位置を質した。すかさず観測士が答える。

「1時20分の方向、約7宇宙キロ。木星軌道に向け直進しています!」
「よし、間隔を保ったまま追尾だ」

どのみち、船脚は『白根』の方が遥かに速いのだ。慌てることはない。

「『アンドロメダ』は?」
「レーダーには映りませんが、まだ小惑星帯の中と思われます!」
「わかった。現在位置を逐次『アンドロメダ』に報告するんだ」

『アンドロメダ』の船脚も『白根』に劣らない。先回りするだろう。

それからしばらくの間、『ヤマト』と『白根』の間でカーチェイスならぬシップチェイスが続いた。

『ヤマト』は時に急転舵等で『白根』をまこうとするが、近藤は彼我の間隔を保ったまま『白根』を『ヤマト』主砲の有効射程ぎりぎり外につけ続けていた。

やがて、木星軌道に近づいた時、『ヤマト』前方10時の方向に『アンドロメダ』が姿を現わし、『ヤマト』の進路を塞ぐように回頭する。

冴子も改めて指示を飛ばす。

「艦首下げ10!間隔を保ったまま『ヤマト』の下腹につける!」

『白根』は『ヤマト』3番主砲搭の死角になる後下部につけた。
これで『ヤマト』から『白根』に向けられるのは、後部対艦ミサイルだけになる。
姑息と言われようが、格上相手には金的蹴りならぬ急所撃ちに限る。勝てば官軍なのだ。


   ――『ヤマト』第1艦橋――

「嶋津の奴、嫌な時に嫌な位置につけてきたな‥‥」

真田がぼやいた。
『白根』は2つある主砲を全てこちらに指向できるが、『ヤマト』が『白根』に指向できる砲門はない。

艦底部の装甲は分厚く、『ヤマト』の艦底装甲を『白根』の主砲で撃ち抜く事は困難かも知れないが、急所に砲口を向けられるのはストレスが溜まるものだ。

「『アンドロメダ』は‥‥土方さんは、俺達が『白根』をまきあぐねている間に先回りしていると考えるべきだろうな‥‥」

古代は憮然としつつ呟いた。
果たせるかな、

「前方11時20分に『アンドロメダ』!!真っ直ぐ接近してきます!」

太田が総旗艦の接近を告げる。

「図体に似合わず、何て脚の速い艦だ!」

砲術長の南部康夫が忌ま忌ましげに吐き捨てる。

排水量が『ヤマト』の5割増しであるにも関わらず、加速や機動性は滅法いい。
地球防衛宇宙軍艦船の性能目安の一つは太陽系内惑星域での巡航速度にある。
単なる加速力だけでなく、逆噴射で停止するまでの時間によって決められるわけだが、『ヤマト』が27宇宙ノット(1宇宙ノット=光速の10%)に対し、ドレッドノート級主力戦艦が28宇宙ノット、標準型巡洋艦が35宇宙ノットであるのに対し、『白根』は32宇宙ノット、『アンドロメダ』は31宇宙ノットが公称だが、どちらももっと速いようだ。

「‥‥あの2隻は地球防衛軍期待の艦だ。
公にされている数字はあくまで表向きに過ぎん。
わざと控え目の数値を発表しているのさ」

真田が事もなげに言う。

「しかし、艦の性能はカタログデータだけじゃ決まらない。乗っている人間のスキルも含めて決まるものさ。
‥‥乗組員のスキルが同じ位ならばハードで上回る方が勝つだろうが、『ヤマト』と『アンドロメダ』『白根』との差はそれ程のものじゃないはずだ」

『アンドロメダ』も『白根』も、艦長や幾人かの主だった乗組員はガミラスとの死闘を潜り抜けてきた歴戦の勇士だろうが、大半は実戦経験がないか浅い。
その点、『ヤマト』はクルーの過半数がイスカンダル行きの経験者やガミラス戦の生き残りで、スキルは飛び抜けて高い。

さらに、『アンドロメダ』『白根』とも就役間もない新鋭艦で、大半の乗組員はまだ自分の艦に慣れたわけではない。

いくら自動制御で扱いやすくなったとはいえ、そうそう直ぐに慣れる程、人間は便利な存在ではないのだ。

『白根』の舵を握っている近藤清市は、造船工厰側による試運転の時から操舵を担当していたと仄聞しているが、それにしても大した腕だ。

「艦長代理、『白根』嶋津艦長から電文が入っています!」
「読んでくれ」

相原が『白根』から通信が入ったことを告げると、古代は読み上げるよう促す。

「わかりました‥‥『あー、あー、無駄な抵抗はやめて止まりなさい。おねいさんは悲しいぞ。嶋津冴子』‥‥以上です」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥あの、バカ‥‥」

あまりに間抜けな電文に、古代達は唖然として言葉を失い、真田は思わず眉間を手で抑えながら呆れた口調で吐き捨てた――。
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