第1章:侵掠の彗星(白色彗星帝国戦役編)

□鬼司令と女艦長
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2日後、嶋津冴子は『越後』を一時下艦し、『白根』関係資料と乗組員名簿を受領するため、東京メガロポリスの中央、地球防衛軍本部にいた。

防衛軍内部でも、注目の新型巡洋艦の艦長に女性が就任するという報せはとうに広まっており、冴子は痛いほどの視線を感じた。
歓迎や憧憬は元より、嫉視も。

艦の資料と乗組員名簿を受け取り、どこか腰を落ち着ける場所を探していると、見知った顔の男女数人が歩いて来た。

周囲の者は続々と彼らに対して直立不動の姿勢をとって敬礼する。
冴子にとっても、彼らの中に敬意を払うべき人物がいるため、それに倣う。
すると、その1人――地球防衛軍司令長官・藤堂平九郎大将――が冴子に気付き、表情を僅かに緩めながら答礼する。
藤堂の後ろに続く長官秘書の森 雪も柔らかな微笑を浮かべながら会釈してきた。

雪は来月古代進と結婚するが、しばらくは現職務に留まるという。

‥‥でもな、雪よ。早く子供も作れ。森のご両親はもとより、泉下の古代のご両親や、あの白髭親父、何よりイスカンダルの兄貴とカミさんも喜ぶぞ?
浮いた話一つない我が身を遥か頭上の棚に放り投げて、冴子は思うのだった。

本部の一角、高級士官用カフェ「水交舎」に入り、奥の席に座って乗組員名簿を開く。

――案の定、乗組員の大半は訓練学校を出たばかりのヒヨッ子ばかりなのだが、女性が全体の3割強もおり、これまでの艦と比べても異例なほどの多さだ。

ガミラス戦役における男性人材大量喪失の影響もあろうが、冴子やそれに続いた少数の後輩達、あるいは先程の森 雪が『ヤマト』で見せた縦横無尽の活躍の実績もあるのだろう。
いずれは女性だけで運用される艦も出てくるのだろうか?

その一方で知った名も見受けられ、冴子は表情を緩めた。

副長兼航海長の近藤清市は53歳。士卒からの叩き上げで、燻し銀の操舵技能には定評がある。
機関長の長尾栄治もやはり叩き上げの職人肌だ。

また、炊事班長の幕之内 勉は同期。専攻こそ違うが、あの『鬼』の薫陶をともに受けた仲であり、調理の腕も確かなのはプライベートでも体験済みである。

過日、古代守や真田と痛飲した翌朝、彼を呼び出して駄々をこね、――真田曰く、最悪な泥酔女の難癖――作らせたしじみ汁の何と旨かったことか。
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