第4章:いざイスカンダル!そして‥‥(イスカンダル救援作戦編)その2

□待つ者たち
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――地球防衛軍・新横須賀基地――

地下港第1バース。そこは地球防衛艦隊総旗艦のみが使用を許されるが、久しぶりに本来の主を迎え、活気が戻っている。

本来の主――連合艦隊旗艦『アンドロメダ』――は、白色彗星帝国軍との戦闘で受けた損傷に対する修復工事と試験航海、細部の改修調整を終え、一昨日、この第1バースに着岸した。

理想を言えば、白色彗星帝国軍との戦訓を取り入れた改装工事を施工したいところだが、戦力の過半を失った艦隊の再建が優先されたため、再設計や新たな資材・工程を要する改装は必要最低限にされ、基本的には復旧を主とされた。

尤も『アンドロメダ』については、各部の制御を自動から手動に容易に転換できるようにする付加工事が施工されている。

『アンドロメダ』は運用成績・現場からの評価共に良好だったが、ダメージリカバリー能力の低さが指摘された。

これは『ヤマト』以外の地球艦艇に共通したことで、人材の枯渇による大幅な自動化はやむを得ないにしても、ダメージコントロールがほぼ機能しなかったのに加え、新型艦で前線の要員がまだ習熟しておらず、『ドレッドノート』級等のマスプロ艦群の一部は戦線に復帰して敵首都星要塞攻防戦に参加したのに対し、『アンドロメダ』の修復は後回しにされ、敵首都要塞攻防戦に参加できなかった教訓によるものだ。

無論、ハードだけ改めたところで何の意味もない。
ソフトパワー――ハードを扱う人間のスキル――の向上が不可欠だ。

今後建造される艦船は一層の自動化がなされるし、無人化した自動戦艦・駆逐艦も次々と竣工している。

無人艦はいざ知らず、有人艦の乗組員には、今一度ダメージコントロールの何たるかを叩き込まねばならない。

『アンドロメダ』の司令官執務室で、部屋の主である土方 竜は再建策素案を練っていたが、そこに室外からの通信が入る。

「総司令、山南閣下をお連れしました」
「ん、通せ」

思案を中断した土方は、来客を迎えるべく立ち上がった。

「――(第7艦隊司令官の)内示は聞いたな?」
「ええ。しかし、寄せ集めもここに極まれりですね」

先輩――土方――の問いに、後輩――山南――は肩を竦めて苦笑する。

「無人艦を含む新造艦に敵からの鹵獲艦、乗組員はヒヨコが主体。こいつらを早期にいっちょ前にしなければならん‥‥沖田のやつが目を覚ましてくれれば、総指揮をあいつに押し付けて、俺自身がこっちをやりたいくらいなんだがな」
「今、さり気に本音出ましたよね?」

先輩のぼやきに、後輩は即座に切り返す。

「沖田さんなら『前線は俺が引き受ける。お前は全体指揮をやれ!』と返すんじゃないですか?そして大喧嘩になる‥‥と(笑)」
「ふん、そうだろうな」

憮然とした表情のまま、土方は山南にファイルを手渡した。

「――これは?」
「お前んとこの正旗艦だ。来年8月に竣工する」

ファイルを開いた山南は、驚愕と呆れが入り混じった表情になった。

「『超アンドロメダ級試験戦艦・マルス(仮)』‥‥一体何ですか?この胡散臭い艦は」
「『アンドロメダ』級の建造は『ネメシス』(3番艦)で一旦凍結されるが、仕込み済みの資材が多いのでな。廃棄もできないし、いつまでも倉庫に置いてもおけん。‥‥有効活用を兼ねて1隻に仕立て直すというわけさ」
「‥‥しかし、いつ基本設計が?イレギュラーにしてはあまりに手際が早過ぎます」

カタログデータを見る限り、『マルス』は人類史上最大最強の戦闘艦だ。設計には相応の時間を要するはず。
かなり以前からまとまっていたとしか考えられない。

「基本設計は大山だが、真田も2・3枚噛んでいたらしい‥‥あのメカヲタ共め」

ぼやく先輩に山南は苦笑した。

「真田に大山、古代守に嶋津‥‥あの期は確かに悪たれ揃いでしたが、生き延びた連中はよくやっているじゃないですか」
「素っ頓狂な事ばかりやらかすあいつらにさんざ手を焼かされたのは俺だぞ、山南」
「くくっ‥‥そうでしたね」
《よく言うよ(笑)》

土方と沖田を長年見てきた山南にとってはツッコミどころ満載なのだが、それは口に出さなかった。

(ま、あの悪たれどもも元気良すぎる部下や教え子に手を焼くんだろうがな‥‥)


山南も教育畑の経験があり、つい先日まで日本地区の宇宙戦士訓練学校校長職にあったが、それより約10年前は教官として勤務し、古代 守らの1期下の訓練生を受け持っていた関係で、古代・真田・嶋津・大山らと、彼らを厳しく鍛えていた土方を間近で見ていた。
無論、彼らが引き起こした数多の騒動やすったもんだも。

そんな悪たれどもも、生き残りは今や第一線の要所につき、中堅どころかベテラン扱いだ。

そして、その中の幾人かが、崩壊の危機に瀕したイスカンダルの古代守とスターシャを助けに赴いている。

「そういえば、嶋津達はもうイスカンダルに追いつきましたかね‥‥?」
「さあ、な――」

天井を見た土方は確信していた。

『あの面子が揃って、面倒事が起きない事などあり得ない』

と。

――冥王星軌道外側で哨戒にあたっていたパトロール艦『天塩』から緊急電が入ったのは、それから30分後のことだ――。
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