第3章:いざイスカンダル!そして‥‥(イスカンダル救援作戦編)

□訓練航海A
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   ――新横須賀基地――

明けて、訓練航海の出発日。
ひんやりとした晩秋の青空の下、宇宙戦士訓練学校卒業生たちが、それぞれの乗艦に向かおうとしていた。

『ヤマト』に乗り組むのは、飛行科を除く、北野哲・徳川太助以下の野郎ばかり59名。
彼らは2隻の内火艇に分乗し、沖合に錨泊している艦に乗り組み、飛行科卒業生と山本ら『ヤマト』新戦闘機隊は嘉手納基地から合流することになっている。

一方、『白根』には三沢亜里沙以下の男女混合25名だが、艦が接岸しているため、こちらは徒歩乗艦だ。


   ――『白根』艦橋――

「申告します!三沢亜里沙以下、戦闘科、航海科、機関科、技術科、船務科卒業生25名、『白根』乗り組みを命ぜられました!」

代表である三沢の申告と敬礼に、冴子と松島は答礼し、松島が指示する。

――ちなみに、『水無瀬』に配属された新人は10名だ。

「わかった。指定の居住区に荷物を置き、15分以内に各配属先で着任を申告しろ。三沢は艦橋で観測任務に就け」
「はいっ!」

緊張した面持ちで三沢が駆け出して行く。
その背中を一瞥した冴子の後ろで、あっという声が上がった。町田の声だ。

「どうした?」
「『ヤマト』の新人達が‥‥」

町田が指差したメインスクリーンでは、『ヤマト』の左舷で新人たちのランチが転覆し、海に投げ出された新人たちが泳いで艦に向かっているところだった。

艦から何人かが慌ててタラップを駆け降りている。

「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「…あれは機関科か?」
「はい…」

呆然とする者、額を抑える者、反応は様々だ。
冴子も長嘆息をつく。

――山崎機関長も就任早々ご苦労なことだ。
まぁ、こちらも『ヤマト』の心配をする余裕はないのだが。

10分後から各部署から新人の着任報告が届き始め、13分30秒で全新人の着任が終わった。

「遅いな。せめて12分で揃わないと」

冴子は呟く。最初は命じた時間の8割以内で揃わなければならないのだが。

「次からは5分前集合をルーキー全員に徹底してくれ」
「わかりました。直ちに」
直ぐ様松島が応じた。

「『ヤマト』『水無瀬』も新乗組員の着任が完了しました」
「よし。30分後‥‥0945時出航だ」

パク通信長に指示すると、マイクを手にして艦長席から立ち上がった。

「新乗組員諸君。艦長の嶋津だ。
『白根』『ヤマト』『水無瀬』は、これより訓練航海に出発する。
今航海の目的はただ一つ。諸君らに1日も早く一人前の宇宙戦士になってもらうことだ。
故に、訓練は全て実戦同様に行う。各リーダーの指示に従い、注意して訓練に臨んでほしい。
発進は30分後だ。総員配置につけ!」

「おらあっ!ぼやぼやしてんじゃねえぞ、お前ら!」
「は、はいっっ!」

各部署で、新人たちがリーダーに尻を叩かれ蹴飛ばされながら、わらわらと配置についた。


――『白根』『水無瀬』はどうにか発進し、幾分ヨタヨタしながらも上昇していったが、『ヤマト』は、ガチガチになった新人がポカを連発し、離水に四苦八苦していた。

徳川太助が誤って非常制動弁を開いたため急減速したり、発進指揮を任された北野がガチガチになってなかなか離水せず、制限区域ギリギリになってようやく離水する有り様だった。

高度20000bでいったん水平飛行に移り、嘉手納基地から発進する『ヤマト』戦闘機隊合流ポイントの与論島沖合上空へ向かう。
やがて――。

「前方11時30分の方角に編隊。友軍機です」
「味方識別確認はどうした!?」

観測員席についた新人の三沢が飛行編隊接近を報告したが、味方識別確認がない事を松島が指摘する。

「も、申し訳ありません!味方識別信号、確認しました。『ヤマト』乗組のコスモタイガーです」

たちまち松島の怒声が艦橋に響き渡った。

「識別信号を確認せずに味方だと言う馬鹿がどこにいる!!? これが実戦で、あれが敵編隊だったら我が隊は壊滅しているところだぞ!わかっているのか!!??」
「申し訳ありません…。以後、気をつけます」
「実戦でやり直しはないぞ。いいな!?」
「はいっ!」

叱る時は厳しく。しかしいつまでもネチネチと言わない。これが宇宙戦士流だ。
ほどなく山本以下のコスモタイガーが『ヤマト』に次々と着艦。13TFの3隻は赤道に向けて増速しながら高度を上げていった――。


――地球防衛軍・嘉手納基地――

次々とテイクオフしていくコスモタイガーを、後輩の飛行訓練生達は“帽振れ”で見送る。

「くそーっ、いいなあ、坂本さん達!」
「ああ!」

彼らの表情には一様に憧憬と羨望があった。

それも無理からぬ事。
今回飛び立っていった卒業生の坂本 茂や椎名 晶らの配属先はあの『ヤマト』。
地球の守護神ともいえる『ヤマト』乗り組みを命じられる事は、日本を含む極東アジア地区の訓練生にとって最高の名誉なのだ。

『ヤマト』は現行の主力艦より人手を要する艦ゆえ、
「ヤマトで務まれば、他の艦では即戦力」

とも言われている。それだけイレギュラーな事態に遭遇しながらも切り抜けてきたという実績ゆえだ。

「‥‥‥‥」

高空に光る3つの点をじっと見詰める訓練生が低く呟いた。

「――兄貴、必ず追い付くからな」

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