第2章:侵掠の彗星2plus(白色彗星帝国戦役〜インターミッション)

□エスティア@
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帰還しても全ての乗組員がすぐ帰宅できるわけではない。
負傷の有無や階級によっても異なる。ましてや艦長ならば任務解除になるのは最後になる。

退艦した嶋津冴子が最初に赴いたのは軍病院だった。

「申し訳ありません。今日はここまでしか処置できなくて‥‥」
「いや、後遺症や感染の心配がなければ構いません。この程度で済んで御の字ですからね」

僚艦との激突の時に負った右頬の裂傷は意外に深く、皮下組織まで傷つけていた。
病院では感染症や宇宙放射線病に対する内科処置と外科処置を施したのだが、傷痕を消す整形外科処置まで行うには、収容された者の人数が多過ぎた。
各艦船からの負傷者、特に重傷者に対する処置が優先されるため、冴子の傷に対する整形外科処置は優先順位が低く、後日改めてという事になった。

「ふむ。ちっとは女っぷりが上がったか‥‥?」

右頬に貼られた絆創膏を撫でながら、冴子は病院を後にした。

――結局、嶋津冴子は、右頬の傷痕を消す処置を受けることはなかった――。


――内惑星防衛艦隊司令部――

「――明後日、『ヤマト』幹部乗組員に対する査問会議を行うことになった。君も証人として出席するように」

出頭早々、片腕を吊った同艦隊参謀長・ボー・グエン・サッポ少将から通告を受けた。

「わかりました。‥‥異存は全くありませんが、随分早くありませんか?」

証人どころか共犯者なのだから、出席は当然であるし、処分を受けるつもりでいたから一向に構わないが、戦闘が一応終結してからまだ日が経っていない。

「大人の事情という奴さ」

グエンは些か肩を竦める。

「我が軍は戦力の過半を失った。直ぐに再建に入らねばならない。そのためには、再建の足枷になり得る事は片付けておかなければならないのだ」
「はい‥‥」

冴子も頷く。白色彗星帝国の絶対君主・ズォーダーは斃れたが、彼らの支配域はアンドロメダ銀河にあると推定されており、新たな君主が地球に対する復仇戦を企てる可能性がある。
更に、今後も新たな好戦的・侵略的な勢力とぶつかり合う可能性も否定できない以上、戦力の再建は必須だ。
その為には今回の戦争の反省と教訓のフィードバックは欠かせない。

その一つとして、『ヤマト』脱走の検証が行われるのだ。

『ヤマト』脱走事件は既に真相に近い部分が市民に知られており、軍上層部に対する批判が強くなっているため、上層部が古代達を処断することは困難だろうというが、

(賞賛される事はあいつらも望んじゃいないし、メンツを潰されて収まりがつかないお偉方もいるだろうしな‥‥)

処分なしとはいかないだろう。手を貸した私もだが。
司令部を後にし、歩きながら考えている時、

「おーい、嶋津!」

振り向くと、同期生の技術大尉・大山歳郎が手を振っていた――。
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