第2章:侵掠の彗星2plus(白色彗星帝国戦役〜インターミッション)
□無職青年の優雅な日常
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――ミッドチルダ首都・クラナガン郊外、高町家――
突然管理局を退職して行方をくらませていたユーノ・スクライアから八神家に手紙が来たという報せは、その日の夕方に高町なのはにも知らされた。第1発見者たるヴィータから。
ユーノからの手紙は封書だったが、万一の事を考えて魔力封緘がなされており、八神家の者以外は開封できないようになっていた。
封書の中から現れたのはピクチャーポストカードと便箋が1枚ずつ。
ポストカードを見たヴィータは思わずプチ切れしたという。
そのピクチャーポストカードは、何処かの管理世界の自然保護区にいるユーノが収められていたが、何故かユーノはフェレット化しており、幼稚園児達と戯れている光景だったのと、カードの片隅に
『久しぶりのフェレットモードも悪くないね♪』
と日本語で書かれていたことだ。
これにヴィータはプチ切れしたのだが、はやて・シグナム・シャマル・ザフィーラは困惑の色を浮かべた。
一方、便箋には、何も言わず突然局を去った事に対する謝罪と、自らが立ち上げたわけではない組織に長期間属する事は、独立不羈を是とするスクライア一族の矜持に反する事であるため、無限書庫司書長に就任したその日から、無限検索の構想に着手し、完成した時点で辞めるつもりだった事等を打ち明けていた。
そして、最低3年はミッドチルダから離れる事と、今後は1〜3ヶ月毎に高町家か八神家に手紙を出す事を約していた――。
『まったく、心配させやがって!』
『スクライア自身が、これからは定期的に便りをよこすと言っているのだし、元気でやっているのがわかっただけでもよしとするしかないだろうな‥‥』
ヴィータとシグナムが言うが、なのはの表情は冴えない。
「でも‥‥どうして何も言わずにいなくなっちゃったのかな。ユーノ君が決めた事なら、私達、無理に引き留めたりなんかしないのに‥‥」
最もユーノとの付き合いが長いなのはが沈んだ声を上げた。
リンディやレティ、あるいはなのはの母親である高町桃子ならば何らかのアドバイスができたかも知れないが、私生活では男性との付き合いが極少ないなのはが男心を理解するには、人生経験が全く足りなかった。
――ちなみに、当のユーノは――
「よし!」
唐突に毛鉤が水中に消える。
竿を引き上げるや、振動と共に重量感が手に伝わってきた。
一気に引き抜くと、日の光に銀鱗を輝かせた魚が水面から飛び出し、左手に持った網にスポッと収まる。
「ん、尺オーバーだ♪」
網に収まった魚を見たユーノの表情が綻ぶ。
魚は、かつてユーノが滞在した世界で云うところの『イワナ』に酷似しており、もちろん食用になる。
「やはり、こういう方が性に合うな。僕は‥‥」
渓谷での釣りは実に12年ぶりだったが、竿を振っているうちに思い出した。
因みに今の釣り方は、なのはの父、士郎から教えてもらった“テンカラ釣り”。
リールすら使わないシンプルなやり方が気に入っている。
「さ、納竿しよう‥‥」
燻製にすれば2〜3日分になるだけの釣果は得た。骨酒もいけそうだ。
竿を片付け、釣り上げた魚の処理にかかる。
――管理局を退職して3ヶ月余り、ユーノは専ら管理世界の自然豊かな辺境部を巡る、何とも優雅なプータロー生活を送っていた。
こういう場所では管理局での肩書は通用しないし、ユーノ自身も組織での肩書に価値を見出さない人物なので、放浪生活は何の苦もなかった。
「‥‥空を飛ぶことはできても、なのは達と肩を並べることはもう叶わない。
ならば、僕は僕のペースでこの大地を行くだけさ」
魚を捌き終えたユーノは一人ごちながら、自分のテントに戻っていった。
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