第2章:侵掠の彗星2plus(白色彗星帝国戦役〜インターミッション)
□諦めざる者達の戦い19
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「敵都市要塞下半球に波動砲着弾。崩壊します!」
敵艦の脱出を阻止すべく、護衛艦『バンブー』『セコイア』『ざくろ』から放たれた波動砲が都市要塞下半球に穿たれた穴から内部に着弾。飛行場や軍工厰等を瞬時に崩壊せしめると共に、回転装甲帯をも剥離させ始めた。
しかし、禍々しい影は上部建造物群を崩壊しながら迫り上がっていく。
「‥‥!?」
「何だ!?あれは‥‥」
「超大型艦‥‥?奴をスキャンしろ!」
「既にやっています!」
土方も予想外だったか、席から立ち上がっている。
嶋津冴子は件の巨大な影のスキャンを命じるが、観測士は既に行っており、すぐおおよその解析結果が出た。
「全長12ないし13km、排水量アンノウン、艦体上部に砲塔多数!艦底部に巨大な砲身らしき物体も確認されます!!」
「‥‥‥!」
ブリッジクルーは皆言葉を失う。多数の戦闘艦が出てくると思いきや、大艦巨砲主義の権化のごとき戦艦形機動要塞とは――。
「全艦艦首下げ!敵巨大戦艦の下部に入れ!」
土方の指示が飛び、『白根』以下の各艦は、敵機動要塞の下部に回るべく艦首を下げながら前進し始めたが、そうは問屋が卸さなかった。
要塞戦艦の背面に載った形の砲塔――それだけでもアンドロメダ級すら凌ぐ巨大砲塔――がくるりと左舷に指向し、一斉に撃ち始めた。
光の矢衾ではなく光の柱が容赦なく地球艦隊を襲い、直撃された駆逐艦は残骸すら残さず消滅し、かすっただけでも爆沈してしまう。戦艦も同じようなものだ。
『ヤマト』は島の操艦で直撃こそ免れたが、右舷への至近弾が装甲を抉り取り、各部で爆発が発生した。
その爆発は頑丈な機関室隔壁をも破壊して、そこで作業していた機関科員を飲み込んで吹き飛ばした。
そして、2度目の爆発は陣頭指揮を執っていた機関長・徳川彦左衛門を捉えた――。
「ぐふ‥‥っ!」
意識を保っていた徳川は、致命傷を負ったと悟った。胃から次々と血が込み上げてきている。
(ワシにも年貢の納め時が来た、か‥‥)
「機関長!」
副機関長の山崎 奨が右脚を引き摺りながら歩み寄ってくる。
「バカもん‥‥っ、エンジンから目を離すな‥‥」
「大丈夫。‥‥エンジンはまだまだ元気ですよ!」
山崎も歴戦の宇宙戦士だ。敬愛する上官兼師匠が致命傷を負ったのだと悟ったが、平静な声で徳川の意識を繋ぎ止める。
「貴方が手塩にかけてきたこいつ(波動エンジン)だ。そう簡単にくたばりゃしませんよ」
「当たり前だ‥‥」
山崎と顔を合わせてニヤリと笑い合ったが、新たな苦痛に顔を歪める。
「今、メディック(医療科)が来ますから」
「‥‥ワシは年貢の納め時だ。メディックは助かる見込みがあるモンにかからせろ」
機関室までやられたのだ。ヤマトは満身創痍になっているだろう。メディックだって手一杯に違いない。ならば若い者こそが助かるべきだ。
「‥‥それにな、薮の奴がまだ迷っているようなのでな。喝を入れてくるさ」
「‥‥‥‥」
――薮 助治。彼の名はイスカンダル行の経験者の間では痛みを伴う記憶だ。
間近で薮を見ていた2人にとって、彼の中の闇を見逃していた事は、悔やんでも悔やみきれぬ傷として残っている。
それゆえ、山崎は返す言葉がなかった。
「‥‥一つ頼まれてくれんかな?山崎‥‥」
「‥‥俺に出来る事でしたら、全力で引き受けます」
これが最期の会話になると悟った山崎は、徳川の口許に耳を寄せた。
「太助の奴が来年‥‥ひょっとしたら今年中に繰り上げで卒業になるかも知れんが‥‥もしお前の元に配属されたら、ビシビシ鍛えてやってくれんか‥‥?」
次男坊の太助は山崎とも面識がある。
今、宇宙戦士訓練学校機関科の訓練生だ。
「‥‥わかりました。引き受けましたよ、機関長」
「そうか‥‥済まん、な‥‥」
それきり、徳川が目覚める事はなかった。
「‥‥‥‥」
徳川を横たえて両手を組ませ、頭近くに愛用のスパナを置いた山崎は立ち上がって敬礼した。
「機関長‥‥」
「うぅ‥‥」
軽傷の機関科員が敬礼しながら嗚咽を漏らすが、
「ばっか野郎どもが!泣くのは地球に帰ってからだ!
ここが生きている限り、ヤマトは死なん!消火と被害確認を急げ!」
科員達を大喝し、山崎は矢継ぎ早に指示を下していく。
今はここを守り切り、皆で生きて還る。徳川達を悼むのはそれからだ――。
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