第1章:侵掠の彗星(白色彗星帝国戦役編)

□調査任務と初戦闘
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第11番惑星基地が『ヤマト』を奇襲したのと同じらしい敵に空襲されているとの報せに、『ヤマト』や海王星軌道にあった第4外周艦隊が救援に向かった結果、先着した『ヤマト』が敵艦隊と交戦し。空母を除く艦船と艦載機の殆どを撃破し、敵の脅威を遠ざけた。

しかし基地は壊滅状態で、駐屯していた空間騎兵隊は多数の死傷者を出していた。

本来ならば生存者は後送されるのだが、現地指揮官の斉藤 始大尉ら無傷・軽傷の隊員は『ヤマト』への乗り組みを強硬に希望した。

閉口した第4外周艦隊司令官が土方司令にお伺いを立てたところ、承諾が返ってきたため、重傷者以外は『ヤマト』とともにテレザート星に向かった――。


  ――火星空域『白根』艦長室――

「護衛、ですか?」
『そうだ』

画面の先にいる恩師兼最高指揮官に、嶋津冴子は問い返した。

第11番惑星の地上と空域における戦闘では、敵の艦船や各種兵器の残骸が多数発生した。
当方にすれば、未知の部分が多い新たな敵の詳細を知ることができる宝の山である。

『『ヤマト』が敵の艦艇を殆ど沈めてくれたので、短期的な脅威は解消されたからな。今のうちに可能な限り解析しておきたいのだ』
「わかりました。それで関係のフネは?」
『工作艦『なると』と輸送艦『かむい』を月から差し向ける。合流し次第出発し、現地では第4外周艦隊の指揮下に入れ』
「了解しました。両艦と合流し次第出発します!」

――翌日0600時、『白根』『なると』『かむい』は、予定どおり第11番惑星に到着。先着の第4外周艦隊と合流した。

既に残骸の一部は第4外周艦隊が回収しており、それらは『なると』『かむい』に積み換えられた。
さらに、敵艦の乗組員らしい遺体も収容されている。

「敵は徹底的に破壊していきましたね」
「‥‥そうだな」

操舵士の町田が憤りを込めて呟き、近藤が静かに応じた。
‥‥生き残った空間騎兵隊員が『ヤマト』乗り組みを強硬に志願した理由も、少しは理解できる。

その時、ブリッジ後ろのドアが開いて冴子が入ってきた。

「「おはようございます」」
「おはよう」

挨拶を交わし、艦長席につくや、冴子は

「‥‥町田、艦首上げ90。その姿勢で警戒を続ける」

と指示を出した。

「艦首上げ90‥‥。つまり、艦隊に対して直立姿勢に?」
「そうだ。ここを潰した敵艦隊は『ヤマト』があらかた片付けたようだが、旗艦らしい空母は逃走したようだ。
‥‥その敵が最後の抵抗を試みるかも知れない。それも真上や真下からな。
向こう(第4外周艦隊司令)の承諾は貰ってある」

真意を尋ねる町田に冴子は返した。

数で不利になった敵が、こちらがすぐに対応できない両極方向から襲ってくる可能性は確かに考えられるし、そもそも宇宙空間には上下左右という概念すらないのだ。

『白根』はゆっくり艦首をもたげ、他の艦に対して直立するような姿勢で静止した。

その珍妙な姿勢に、他の艦のクルーからは呆れられるやら爆笑の的になった。

その間にも『なると』『かむい』による敵の残骸回収と調査が続けられている。

地上では敵の装甲車がほぼ完全な形で手に入り、宇宙空間では敵艦のブラックボックスらしき物や推進機関の主要部分らしき部品が回収されたと報告が入る。

基地と人員の損失に比べれば微々たるものだが、それでも収穫は収穫だ。

誰もが表情を和らげたその時、観測員の緊迫した声がブリッジに響く。

「前方12時、30宇宙`にワープアウト反応!大型艦1です!」

案の定というべきか、艦隊から見て天頂方向だ。戦艦や巡洋艦の主砲では直上への砲撃はできない。しかも敵にすれば横腹を晒しているに等しい。
敵ながらやるじゃないか。

「敵の艦種はわかるか!?」

間髪入れず冴子が質す。
操舵席では近藤が全艦戦闘配備を命じ、パク通信長は僚艦に敵発見を伝えている。

「敵艦判明――空母ですっ!艦載機は‥‥見当たりません!」
「よし、主砲発射用意!艦首発射管、対艦ミサイル装填!対空戦闘用意!照準、落ち着いて狙え!」

――太平洋戦争の折、

『搭載機がなくなったのなら、空母ごと突撃せよ!』

と訓示した提督がいたが、まさか本当にやる者がいたとは。

あの空母にとって最強の打撃力はカブトガニ形の艦上攻撃機だが、円盤形の艦上戦闘機ともども『ヤマト』の対空砲火とコスモタイガーに阻まれ、ほぼ全滅したという。

となれば、あとは空母自体の武装だが、見る限り大口径の砲はなく、あとはミサイルくらいだろうが、甘く見る訳にはいかない。

真上を衝かれた形になった第4外周艦隊の各艦も艦首を上げ、主砲を真上に向け始めたが、果たして間に合うか。

「主砲、発射準備完了しました!」
「全発射管、装填完了!」

――よし、土方司令の『教導』と、日頃の訓練の効果が少しずつだが出てきたようだ。

冴子は僅かに口許を綻ばせたが、次の瞬間、

「――撃てっ!!」

ブリッジに攻撃命令が響いた。
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