第1章:侵掠の彗星(白色彗星帝国戦役編)

□主砲全開!目標ヤマト‥‥‥‥マジ?@
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案の定と言うべきか、あのはねっ返りどもは改装中の『ヤマト』を“奪取”して飛び出した。

こうなることはある程度予想していたとはいえ、やはり実際に起きてみると緊張は隠せないものだ。

――1時間前、火星空域 衛星ダイモス付近、『白根』――

「艦長、『アンドロメダ』の土方司令より入電です」

訓練を初めてから僅か30分後、『アンドロメダ』から『白根』に呼び出しがかかった。通信長に電文を読むよう促す。

「‥‥《『白根』は本艦に合流、ともに『ヤマト』を追跡し、脱走を阻止すべし》とのことです」

次いで合流する座標と時刻が伝えられてくる。
当然、ブリッジクルーは戸惑いと緊張を隠せない。

無理もないか‥‥。
そう思いつつ、冴子は艦長席から立ち上がると艦内一斉放送で呼びかける。

「艦長だ。艦隊司令部からの緊急命令を伝える。
『白根』はこれより総旗艦『アンドロメダ』と合流し、太陽系脱出を図る『ヤマト』を阻止する。
‥‥これは演習ではない。総員、気を引き締めてかかれ!」
「は、はい!」

ブリッジクルーが続く。
いきなりの戦闘体制、しかも相手はよりによって『ヤマト』。
ルーキー達を中心に、クルーに戸惑いと不安が広がるであろうことは想像に難くないが、命令は命令だ。出来ませんでは済まされない。

「町田、取り舵120! 両舷全速!」
「取り舵120! 両舷全速宜候っ!」

冴子の指示を新任航海士の町田純子が復唱し、操縦桿とスロットルを操作した。
を町田の横には副長兼航海長の近藤が座している。

主機関の回転が上がり、艦はぐんぐん増速した。
新型の高出力機関とバーニア、スラスターだけに加速や回頭のレスポンスは在来巡洋艦にも劣らない。

――2時間足らずで『白根』は予定会合宙域に到着。
まだ『アンドロメダ』は着いていないようだ。
戦術長の松島淳二が冗談めかして言う。

「土方司令の雷を受けずに済みそうですね」
「5分前集合絶対厳守だからな」

そして、予定会合時刻のきっかり5分前に『アンドロメダ』も到着した。
合流早々、『アンドロメダ』から信号弾が打ち上げられる。
『我ニ続ケ』だ。了解の信号を返し、少し距離を置いて『白根』も続航する。

1時間半程経った時、『アンドロメダ』から『ヤマト』発見の報が入る。
その直後、『白根』のレーダーも『ヤマト』の姿を捉えた。

総旗艦だけあり、レーダーの性能は『アンドロメダ』の方が一枚上手だ。
冴子はすかさず指示を飛ばす。

「総員戦闘配備!主砲・発射管は全てスタンバイ!」

艦内に再度アラームが鳴り渡る
『アンドロメダ』と『白根』は急速に『ヤマト』との距離を詰めていった。
程なく『ヤマト』もこちらに気付いたらしく、急に増速して小惑星帯に針路をとった。

「流石にレスポンスが違うな。島が舵を握っているか‥‥」

向こうの狙いは明白。こちらにスピード・機動性で劣る『ヤマト』は、小惑星帯に飛び込んで我々を振り切るつもりだ。
それだけ島の操艦に絶対的な信頼を置いているのだろう。
だが、こちらの航海長を侮ってもらっては困る。

「町田、近藤副長と替われ」

ルーキーの町田に経験を積ませてやりたいところが、今はいわば実戦だ。このまま小惑星帯に突っ込む以上、近藤副長に任せるのがベストだ。

「『アンドロメダ』に先行許可を申請してくれ」

通信長にも指示する。
『アンドロメダ』の航海長も実戦経験はないはずで、小惑星帯内でのオールマニュアル操舵は無理だろう。
小惑星帯でフルオートやセミオートでの操舵は回避優先で、スピードダウンは否めない。

果たせるから、すぐ『アンドロメダ』から許可の回答が来た。

「近藤さん、このまま『ヤマト』を追うんだ!」
「了解しました」

こんな障害物だらけの宙域でオールマニュアルで操艦できるのは、近藤清市や護衛艦、輸送船に乗り組んでいる超ベテラン連を除けば、『ヤマト』の島大介や『プリンツ・オイゲン』のフランベルク・小百合・アリア等、両手に満たない。

『白根』はアンドロメダの左舷から一気に追い越し、先行した。『ヤマト』が速度を保ったまま小惑星帯に突入した。

「本艦はこれより『ヤマト』に続航して小惑星帯に入る。総員対ショック防御!繰り返す、総員対ショック防御!」

『白根』艦内にアナウンスが流れ、医務室や厨房ではスタッフがぎりぎりまで道具や薬品を棚に突っ込んでいく。

「お前ら、慌てるなよ!皿は落ちても割れやせん!包丁だけはしっかり固定しとけ!」
「はいッ!」

厨房で司厨長の幕之内が新人スタッフに檄を飛ばす。

宇宙艦艇備え付けの食器は重力圏内で床に落ちても割れない材質になっているから問題ないが、さすがに包丁はそうはいかない。

「小惑星帯に入ります」

近藤が落ち着いた口調で告げる。
『ヤマト』に続いて『白根』も速度を維持したまま小惑星帯に突入した。たちまち前方に無数の小天体が出現しては後方に流れる。

「近藤さん、舵任せます!」
「了解しました。皆、イスから落ちるなよ!」

近藤は操縦桿とスロットルを小刻みに操作しながら『白根』を手足のように操り、『ヤマト』を追撃した。


    ――『ヤマト』第一艦橋――

「『白根』、後方にピタリつけています!」

レーダーを覗く太田健二郎が報告する。

「くっ、しぶといな。嶋津さんは」
「‥‥嶋津さんというより、舵を握ってる近藤副長が上手いんだ」

毒づく古代に島が応じる。
古代進や嶋津冴子に限らず、ガミラス戦から生き延びてきた戦術畑の士官は熾烈な戦闘の中で操舵も身につけており、その技量も平均以上のものがあるが、長年操舵士をしてきた近藤の手腕はまさに燻し銀だ。
事実、追従してくる『白根』には無駄な挙動がない。

「乗り組んでからそれほど日は経っていないのに、もうあそこまで艦を手足のように操るとはな。恐るべき先輩だ‥‥」

細かく操縦桿とスロットルを調整しながら島は呟いた――。
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