第1章:侵掠の彗星(白色彗星帝国戦役編)

□悪夢開幕
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   ――地球防衛軍・新横須賀基地――


嶋津冴子以下の固有乗組員による試験航海を終えた『白根』はこの基地に入り、修繕と補給作業を受けていた。
隣接したバースには数日遅れで就役した『アンドロメダ』が横付けされ、こちらは軍側乗組員による試験航海準備作業の最中である。


   ――『白根』士官食堂――

士官食堂とはいっても、ルーキーを含めてもなお定数乗組員数を割り込んでいる『白根』で食事の場を分ける必要性がないことから、『白根』は幹部乗組員も一般乗組員と共に食事するため、士官食堂は会議等の用途に使われるようになった。

――今、ここには艦長・嶋津冴子以下、『白根』各部署の長が顔を並べているのだが、最上席に座っているのは冴子ではなく、本来なら『アンドロメダ』にいるはずの土方 竜だった。

『白根』は既存艦とはかなり異なる艦で、推進機関やアビオニクス(電子装置)等も新型のものを搭載しているため、試験航海には大山敏朗ら軍本部の技術将校や、アビオニクスを設計開発した“揚羽電機”のエンジニアも同行して不具合の発生に備えた。

試験航海では、試作艦ゆえの細かな不具合はあったものの、航海に支障を及ぼすほどのものではなかった。

少なからず問題があるとすれば、ルーキークルー達がやらかしたポカの方だろうか。

いつ任務従事命令が出るかわからない以上、試験航海と並行して新卒乗組員の訓練を始めたのだが、航海士見習で赴任した町田純子は、試しに舵を握らせたところ、緊張の余り艦を宙返りさせた。

機関部では非常停止装置を作動させてしまい、『白根』はノーブレーキのまま火星に衝突するルートを進みかけた。
小さなポカは枚挙に暇がない。

前者はたまたま周囲に障害物や艦船などがなく、後者はすぐ再起動できたため、共に事なきを得た。

当然、これらは司令部への要報告事項であり、冴子は飛び入り出席した土方に取り急ぎの形で口頭報告した。
無論、書面は今日中に作成して提出しなければならない。

土方は長居するつもりはなかったようで、短時間の質疑応答の後、幾つか指示して席を立った。

新たな任務命令はなかった。
まずは『白根』を安定させろという事か――。

冴子がそこまで考えた時、艦内にエマージェンシーアラームが鳴り響いた。

「――!!?」
「何だ!?」

アラーム音に続き、一斉放送が流れる。

『全軍非常待機命令発令!繰り返す、全軍非常待機命令発令!
これは演習ではない!総員直ちに配置につけ!』
「ぼやぼやするな、急げっ!!」

ルーキーを叱咤する怒号が通路から聞こえてくる中、冴子達も席を立った。

「通信長、情報はどこまで入ってる!?」

既にブリッジクルーは全員所定の席についていた。
艦長席につくや、冴子は通信長のパク・ギジュン(朴基禎)に状況報告を求める。

「冥王星軌道付近で第3外周艦隊が突然武力攻撃を受け、損害が出ている模様!
本部からの第一報はここまでです」

第3外周艦隊は旗艦『ストラスブール』に『ヤマト』と戦艦2、巡洋艦4、パトロール艦2、駆逐艦12を擁する、外周艦隊の中では見た目の戦力が充実している。
見た目と言ったのは、乗組員のスキルは相対的にみて決して高くない事からだ。
『ヤマト』にしても、現状は定員を割り込んでいる上、イスカンダル行の経験者やそれ以前からの中堅以上のキャリア持ちは、艦長代理の古代進や通信長の相原義一ら10人そこそこに過ぎず、あの時のようなパフォーマンスは期待できまい。
他の艦も内実は『ヤマト』と似たり寄ったりだろう。
被害が最小限で済めばいいのだが‥‥。

「‥‥わかった。当面警戒態勢を維持。補給も急がせるように」
「了解しました」

バースでも行き交う人員や車両が急に慌ただしくなっている。

(‥‥たった1年の平穏に過ぎなかったのか――?)

相手がガミラスなら復讐戦を仕掛けてきたというべきだろうが、もしもガミラスでないとしたら――?

艦長席のコンソールの下で、冴子はギュッと拳を握り締めた。

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