第4章:いざイスカンダル!そして‥‥(イスカンダル救援作戦編)その2

□少女の日常と軍人の非現実
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防衛軍司令部と冴子たちが協議している頃‥‥。

横須賀市の軍士官官舎の一角では、1人留守を守る少女がいた。

4人は住めるマンションタイプの部屋に住んでいるのは高町雪菜1人だけ。

家長たる嶋津冴子は訓練航海に赴いたはずが、イスカンダル星救援のため、『白根』『ヤマト』『水無瀬』を率いて大マゼラン銀河に飛んで行ってしまった。

『こうも毎日が平穏続きだと退屈か?レディ』

雪菜1人しかいないはずのダイニングに壮年男性の声が響く。

「‥‥否定はしないよ。退屈させてくれない人だから」

その声に、雪菜は何の疑問もなく答えている。

「光より速く移動できるのに、足元が見えない人だからね」
『要は、私生活では《マダオ》という事だろう?』

身も蓋もない冴子評は、苦笑を浮かべる雪菜の目前に舞い降りた白文鳥から発せられている。

傍目には大きめの手乗り文鳥だが、実際には白文鳥のスーパーリアルフィギュアである。

そのフィギュアが本物と寸分違わぬ動きはもとより、飛翔能力や体色を変える機能まで持ち合わせているのは、フィギュアにはまり込んでいる物体と雪菜が持つ、凡そ科学とは程遠い力によるものだ。

――地球ではそれを“魔法”と言うが、それはさておき――。

『レパートリーは五目稲荷限定。家事能力は小学生低学年レベル。レディが同居しなかったら、汚(お)ねえさんから汚バサンへと変わり果てているところだぞ、カピタン(冴子)は』
「‥‥確かに、五目稲荷だけは抜群に美味しく作るんだよね、艦長は‥‥。
片付けられないけど」

雪菜たちが指摘したとおり、冴子はいわゆる“片付けられない女”だが、遊星爆弾で命を落とした養母から引き継いだ五目稲荷寿司だけは抜群に旨く作るのだ。
片付けられないけど。

『そのくせ、どこに何があるかはしっかり解っているというのは納得いかぬのだが‥‥』
「――艦長が“アレ”なのはもう馴れたけど、その姿でお酒飲んだ揚げ句、桜色に変わる方が納得いかないよ。ピュア・ハート」
『‥‥〜♪♭♯♪』

返ってきたのは文鳥本来の鳴き声だった。

「‥‥チッ」

ダイニングに可愛い舌打ちが響く。

『朱にツッコみて赤くなりにけり。侮り難し朱の汚染力よ。か‥‥』

白文鳥ことピュア・ハートは密かに長嘆息した。某大帝によく似た声で。
しかし、すぐに口調を改める。

『それはそうと、あの母子は大丈夫だろうかな‥‥?』
「うん‥‥」

数日前、雪菜が偶然にも知己を得た新美 香と息子の保(まもる)のことだ。

俄には信じられなかったが、香は古代 守の元カノで、一緒にいた保は守の面影を色濃く引き継いでいた。
守の幼馴染みでもある技術士官・大山歳郎も、守と香が親密な間柄にあった事を知っており、保の父親は守だろうと言い、ピュア・ハートも同じ結論を出していた。

(守さんとスターシャ女王の間に子供がいて、それが公表されれば、香さんと保君は社会的に抹殺されかねない。
手前勝手だけど、女王様が本当に広く深い度量の持ち主であることを祈るしかない‥‥)

地球を救うために唯一の肉親だった妹サーシャを失い、なおも見返りを求めなかったスターシャだ。
夫に元カノと息子がいたとしても冷静に受け止めてくれるはずと信じるしかないのだった。

良くも悪くも雪菜の願いと予感は外れるのだが、それは少し後のこと――。
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