BOOK 1
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蒸し暑い夏の体育館の中。征十郎は涼しげにベンチに座り、チームメイトに的確な指示を出す。
近くの木に蝉が止まっているのか激しく鳴き声を上げている。
僕はそんな奴の姿を体育館の端でボーッと眺めていた。応援する訳でも無くただ見ていた。
こうして征十郎の練習を見るのは中学以来か。何度か強制的に連れて来られ、渋々部活が終わるのを待っていたのを覚えてる。
その時にさつき達に出会い、仲良くなった。今こうして僕が此処に居るのは、今朝征十郎から見に来てほしいと頼まれたからだ。
試合でも無いのに?と問い掛ければ征十郎は笑うだけで何も言わなかった。午前中で終わるから構わないけど。
「遊千、帰るぞ」
「もう終わったのか?」
「ああ」
征十郎はあの日から少し変わった。気のせいかも知れないが僕に対して少し優しくなった様な気がする。
嫌がらせもなくなって、放課後も追い掛けられる事も無くなった。理由を聞いてみたが「何となくだよ」とはぐらかされるだけ。
憶測だけで言うなら、征十郎は僕がもう逃げないとわかったから安心したのかも知れない。
あの日、僕は全て切った。携帯を変え、番号もアドレスも征十郎にしか教えていない。それを征十郎に伝えると酷く驚いていた。
『…全部切ってきた』
『全部…?』
『ああ、彼奴等も親もそれ以外の人間も。…お前以外、皆切ってきたよ』
『…何故?』
『お前と向き合う為に』
これで良かった、これが一番だったんだ。征十郎に一番伝わりやすくて、僕の覚悟を見せ付ける為には…
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