鏡合わせのオレとオレ

□3 オレとオレの夢
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ほどなくして、母さんとあかりがじいちゃんの家にやって来た。
母さんは呆れ顔で……
あかりは泣き笑いで……

「ヒカル!!」

あかりが勢い良く抱きついて来た。
今はあかりと身長が同じくらいなので、はっきり言ってキツイ。
だけど、あかりの涙を見たら、離せだなんて言えやしない。

「ヒカル!ヒカル!ひかるぅーー!ごめんね!ごめんね!目覚めて良かったぁーー!このまま目覚めなかったらほんとに、ほんとに、どーしようかと……ひっく!……思ったんだからーー!」

あかりの必死な声にどれだけオレを心配していたのか、罪悪感を感じていたのかが凄く伝わってくる。
そういえば、この世界のオレはあかりを庇って事故にあったんだっけな?

オレは抱きついてくるあかりを抱きしめ

「ほら、もう起きてんだから安心しろよな。怪我だってねーし。即退院だぜ!!」

オレができる限りの笑顔であかりにそう言った。

「ホント?怪我も無いの?………良かった………あっでもヒカル、1ヶ月も寝てたんだからリハビリしないと退院できないよ。」

どうやらオレの言葉で少し持ち直したようで、あかりは冷静にオレの言葉にツッコミを入れる。

「あー……そんなのあったなぁ……まぁ、すぐに終わるさ!」

「あはははっ!ヒカルらしいなぁー。頑張ろうね、リハビリ!」

やっとあかりが笑ってくれた。
なんだか久しぶりにあかりの笑顔を見た気がする。
いや、会うこと自体久しぶりなんだ。
元の世界では、忙しくってあんま会ってなかったし。
オレが死ぬ直前に声が聞こえたぐらいだよな……

でもやっぱ、あかりには笑顔が似合うや。
オレがちっせぇ頃は、恥ずかしくてそんなの考えたことすらなかったけど、オレは今精神的には大人だからなぁ……
あっ、ロリコンじゃねーから!
普通に可愛いって思っただけだから!

そんな風に自己弁解をしていると母さんが

「早くこれに着替えなさい!全く、何を考えてその格好で、しかも目覚めた直後に病室を飛び出したのかしら………こっちとしてはもの凄く心配したんだからね。」

と言って、オレに紙袋を渡して来た。
たぶん中身は服だろう。
今から病室に帰るとしても、このままパジャマで帰る訳にはいかねーからな。

オレは隣の部屋にいき、渡された服に着替えた。
その服は、昔よく着ていた服でなんだか凄く懐かしかった。

オレが戻ると、母さんとあかりは帰り支度をいそいそとしていた。

「えっ!?もう帰んの?」

「当たり前でしょ。病室を抜け出して来てるんだから。」

………確かに当たり前である。
だけど………

「なぁ、母さん。オレ、じいちゃんと一局打ってから帰りてぇんだけど……だめ?」

オレはこの身体で打ったことがない。
だから少し心配なのだ。
そして、この世界のオレは囲碁なんてしたことがない。
つまり、碁盤や碁石が部屋に無いってことだ。
ここで、じいちゃんに勝って碁盤と碁石を買ってもらわないと!
そう考えたのだ。

「一局って何?お義父さん、それってすぐに終わるのかしら?」

母さんには一局って言葉じゃ伝わらなかったみたいだ。
その点、じいちゃんにはちゃんと伝わる。
じいちゃんは、目をキラキラさせながら

「ヒカル!お前囲碁を始めたのか!?」

と言ってきた。

「「いっ囲碁ーー!?」」

母さんとあかりは驚きまくっている。
この世界のオレは囲碁をしたことなんてなかったからな。

「ちょっと前からね。じいちゃんに勝てる実力が付くまで内緒にしてたんだ!だからさ、オレがじいちゃんに勝ったら、碁盤と碁石をオレに買ってよ!もちろん足つき!!」

「短期間の独学でわしに勝とうなんざ、十年早いわ!!よし、もしわしに勝ったら、足つきでもなんでも買ってあげようじゃないか!」

こうして、オレとじいちゃんの対局が始まった。

「ヒカル、置石何個にするかい?」

「置石なんていらないやい!オレってすげー強いんだからな!」

元の世界では三冠。
トッププロだったのだから強いのは当たり前だ。

「そーかの。そんな大層なことを言って負けたら恥ずかしいぞ。」

「へん!じいちゃんこそ、好きなだけ置石を置いていいぜ!」

………元大人とは思えない発言である。
大人げないというか、何というか……
精神が身体に引きずられているのか、それとも、もともと子供のような大人だったのか……

結局、互い戦になったこの対局。
にぎった結果、オレの黒番になった。

「「お願いします!!」」

母さんとあかりはオレが正座をきちんとしていることに驚いている。
そーいえば、オレって正座もできないやつだったなぁと思い出す。

オレからの先手なので、オレは黒石を取りパチッと打つ。
あかりが小さくかっこ良いって言ったのが聞こえた。
なんだか凄く照れ臭い……

「ほぉ……打ち方は素人ではないの。が、囲碁は内容じゃ!」

パチッ

オレもすかさず返す。

パチッ

パチッ

パチッ

………………

何手か打ったらじいちゃんの手が止まった。
やっとオレが仕掛けた罠に気づいたらしい。
じいちゃんは、少し長考した後、ありませんと言った。

「「ありがとうございました!」」

じいちゃんは挨拶した後、

「ヒカル……この力が独学によるものならば、お前は天才じゃ。もしかしたら、プロになれるかもな……。」

と言った。

「もしかしなくても、オレはプロになるさ!」

その発言に母さんとあかりはオレをばっと見た。
散々、囲碁なんてじじいがやるゲーム!だなんて言っていたであろうこの世界のオレ……
いきなりプロになります発言にはさぞかし驚かされたであろう。

「………でっでもヒカル、サッカー選手になるって事故に会うまでは言ってたでしょ!オレの夢だって!そのためにサッカー頑張ってたんじゃないの?……もしかして……サッカー辞めちゃうの?……時期エースとか言われてたのに……。」

あかりが戸惑いながらオレにそう言った。
その言葉を聞いてオレはぼんやりとあの夢を思い出した……


『オレの心の世界は、お前の心の世界でもあるんだぜ!』

『仕返しぐれえさせてくれよ!』

『オレはお前に一番近い奴だぜ!!』


……あの声の持ち主は……もしかして、この世界のオレのなんじゃねえか?

……仕返しってあいつの夢を奪うことになったからなのか?

……またオレは誰かの夢の邪魔をしてしまったのか?

オレはその可能性に行き当たり、途方に暮れた………

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