鏡合わせのオレとオレ

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ザァザァザァと雨が降る。

まるで今のオレの心境を表している曇天から流れる、大粒の涙のようだ。

今日は5月5日。

それは、オレにとっては凄く重大な日だ。

そう、もう何年も昔から………

この日は、オレの大事な人がいなくなった日。

毎年この日になると、オレは凄く憂鬱になるんだ。

ああすれば良かった、こうすれば良かった。

そんなことばかりが、頭に浮かんできて……

一人でこの日を過ごすと、鬱病にかかってしまいそうになる。

オレは、気分転換になるかな?

と思い、雨の中散歩に出かけた。

でも、頭の中はずっと、あいつのことだけ………

会いたい会いたい会いたい会いたい…………

会って色々話したい!

ごめんって謝りたい!

あぁ、でも本当は、分かってるんだ。

どれだけ渇望しても、あいつと会えないってことを………

でも、この日だけは…………この日だけは………

あいつのことを考えさせてくれよ………

オレはふと、雨に打たれたくなって、せっかく持ってきた傘をさすのを辞める。

まだ春で、少し冷たい雨がオレをずぶ濡れに濡らしていく。

上を見上げると、灰色の空が広がっていた。

あぁ、早く晴れれば良いのにな………

そしたら、オレの心も少しは明るくなれるかもしんねぇのに。

気分転換のための散歩だったが、何処を見ても、あいつと過ごした日々が思い出される………

懐かしい、懐かしいあの日々。

頬をつたう少し温かい雫は、雨なのだろうか?

それとも、オレの涙か?

オレは、雨の中なのだから意味のない行動だと分かっていながらも、その雫を右手で拭う。

その時にチラリと視界に入った、右手の磨り減った爪………

それはまぎれもなく、碁打ちの爪だった。

そう、オレは頑張らないと………

あいつの弟子として、あいつの碁を引き継ぐ者として………

あいつが愛してやまない碁を。

あいつから教えてもらった碁を。

今ではその碁でしか、あいつとは会えないのだから………

でも、本当は………

「お前と直に会って、話したいんだよ、佐為………」





キキキキッッーー

ドオーーンッッ





衝撃が身体中に走り、視界が暗転する。

真っ暗な、真っ暗な世界へと意識が引きずられていく。

何もなく、凄く寂しい空間だ。

その空間に、少し居ると、何か音………いや、声が聞こえてきた。

「ヒカル!ヒカル!!目を覚ましてよ!!せっかくタイトルを3つも手に入れたんでしょ!こんな…………こんなところで、死なないでよ!」

あかり……………?

死ぬってオレが?

あー……さっきの衝撃は事故だったのか?

「進藤!!キミはこんなところで立ち止まるべきじゃない!!ボクと………ボクと神の一手を目指すのだろう!!!」

塔矢…………

そうだよな。

神の一手を目指さねぇと。

あいつに顔向けできねぇじゃなぇか。

………でも、このままオレが死んだら?

そしたらあいつに会える?

あー……だめだめ。

こんな形であったら、あいつがわんわん泣き出しそう………

『ヒカル〜なんでこんなに早くこっちに来ちゃったんですかぁーー』

ってな。

「神様……神様!どうか、どうか、息子を………ヒカルを連れて行かないで下さい!!この子には、やらなくてばならない事が沢山あるんです!!」

母さん………

そうだよな。

オレは、死ぬわけにはいかねぇ!!

あいつから受け継いだ碁を、こんなところで辞めたりなんかしねぇ!!

だが、そんなオレの決意とは裏腹に聞こえていた声が遠くなっていく………

「「「ヒカル(進藤)!!…ヒカル(進藤)!…ヒカル(進藤)…ヒカ……しん…………………」」」

ごめん………ごめん、皆………

オレ、もうダメみたい……………




ピーーーーーーー

進藤 ヒカル 享年24歳

死因 飲酒運転による交通事故
















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

雨の中、傘をさしている少年と少女がいた。

少年の方は雨だというのに、傘を片手に走って行こうとする。

少女は、それを咎めているようだ。

「ヒーカールー!!こんな雨の中で走ってたら滑って転んじゃうよ!」

「へへーん!お前じゃあるめぇし、そんなヘマしねーよ!!」

少年は少女の忠告を聞かず、それどころか少女のことを乏していた。

「なんですって!?……々もう、本当に知らないよ!滑って転んで、明日からサッカーができなくなっても!!」

「お前に心配なんかされなくても大丈夫だっつーの!オレは、サッカー界のヒーローになる男なんだからな!!」

少年は、手に持っていた傘をグルングルン回しながら少女に語る。

そんな使い方をしているので、雨に濡れてしまい、傘の意味がなくなっている……

「あっそーですか!そんなことは、まずレギュラーになってから言って下さい!!」

「へーんだ!オレは次期レギュラー決定なんだよ!!だから………って危ねえ!!!」

少年が少女の方を向くため、後ろを向いた瞬間、少年は少女に向かって叫んだ。

それと同時に、少年は少女を突き飛ばした。

「えっ……ヒカル!?」


ドガーーーーンッッ


少女がその大きな音の音源の方を見ると、そこには、ガードレールに突っ込んでペシャンコになっているトラックと、頭から血を流し、倒れている少年の姿があった。

「ヒッ…ヒカル!?………いやぁぁぁぁーーーーーー!!」

少女は少年に駆け寄り、泣き崩れる。

「おっおい、事故だ!!誰か、救急車を呼べ!!」


ピーポーピーポー…………


少年は、病院へと搬送されていった。
















2つの世界………

同じ魂を持つ者同士の、同じ日の事故………

これは、世界にどのような変革をもたらすのだろう?

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