あぁ、懐かしの友よ

□18 懐かしの「夢」13
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次の日学校に行くと、オレは塔矢を探した。
昨日の対局がどんなのだったのかを知りたかったからだ。

塔矢はすぐに見つかった。
教室の端っこで本を読んでいるようだ。
その本をよくよく見てみると、どうやら詰碁集だ。
なんだか塔矢らしいなって思った。

「おーい、塔矢!ちょっといか?聞きたいことがあんだ!」

オレが廊下から大声で塔矢を呼ぶと塔矢は驚いたようにこっちを見た。

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!今行く!」

塔矢は、慌てて廊下へとやって来た。
どうやら、オレが大声で塔矢を呼んだせいで変に注目を浴びたことが恥ずかしかったようだ。
ちょっと耳が赤い。

「君は、そんなに大声で呼ばなきゃ僕が気づかないとでも思ったのか!?恥ずかしいじゃないか!」

今度は塔矢が大声を出した。

「悪かった悪かった!でもさ、塔矢も同じくらいの音量で怒鳴ってるぞ?」

塔矢は周りを見渡すと、さらに注目を集めたということに気がつき、耳だけではなく顔まで赤くなった。

「ごほんっ!……話す場所を変えようか。」

塔矢は咳払いし、場所を変えることを提案してきた。
まぁ、こんなに注目を浴びたまま話すのもなんだしな。
オレは、塔矢の言葉に肯いた。

塔矢は、何処に向かっているのか分からないが歩き出した。
オレはその後に続いた。

オレはまだ校舎に慣れただけで、校舎の外にまで出られると道が分からなくなるので、しっかりと周りを見ながら歩いた。
また迷子にはなりたくないからな。

校舎裏っぽい場所に着くと、塔矢は歩みを止めた。
人の気配が全く感じられない。
ここまで徹底する必要もないのにな。
なんて思いつつ、塔矢の几帳面さにビックリした。

「それで、話って何なんだい?」

塔矢がこちらを向き尋ねる。

「あー……昨日の大会なんだけどさ、進藤との対局どうだった?なんか塔矢、すげー進藤と戦いたそうだったじゃねーか。だから気になってさ。」

オレがそう言った瞬間、この場の空気がみごとに凍った。

「あー……もしかして、負けた?」

オレはこの場の空気が凍った理由をそう考えた。
その考えが当たっていたら、打ったのは佐為の方だろう。

「…………君は、僕があんなに弱い奴に負けただなんて思ったのか?」

ヒューヒューとバックに吹雪が吹いている様に見えた……
どうやらこれは、予想とは逆パターン……

進藤が自分の力で打ち、そのあまりの弱さに塔矢がキレた。

というものなのだろう……

「いやー…ほら、さ……もしかしたら進藤ってめちゃくちゃ強かったのかなーって思っちゃって……」

オレはしどろもどろになりながら、必死で言い訳をする。
いや、そんぐらい怖かったんだって!
このキレた塔矢!!

「………確かに凄く強かったんだ……以前打った時は。なのにいきなりあの弱さ……失望したよ、進藤には。」

「………………」

凄い言われようだな、進藤。
まぁ、あそこまで必死で追いかけた相手が期待はずれだったらこうなるか?

そんなことを考えていて、オレが何も言い返せずにいると塔矢は

「話がそれだけなら、僕は帰るよ。授業も始まることだしね。」

と言って一人で教室に帰ってしまった。

どうやら塔矢は相当頭にきているようだ。
あのいかにも良い子!
って感じな塔矢があんな風になるのだから。
でも進藤はどうして佐為の力で打たなかったのだろう?
以前は佐為の力で打ったようだし。
あれか?
近くに筒井や三谷とかがいたからか?
それとも、別の理由があんのか?
今度、進藤に直接聞いてみるか。

そんなことをうだうだ考えていると

キーンコーンカーンコーン

と学校中にチャイム音が鳴り響いた。

「やっべ!?朝のHR始まっちゃうじゃん!!」

オレは大急ぎで自分の教室へと帰った。
















それから数週間後。
結果として、あの大会の対局については詳しくは知ることができなかった。

オレは、あれからもうすぐプロ試験だということもあり、ほぼ毎日一柳先生のもとで修行に励んでいた。
そのため、進藤に会う暇がなかったのだ。
一応、進藤に電話をしてみたが、案の定、塔矢と同じような受け答えしかしてくれなかった。

もうここは、すっぱりあの日の対局については忘れることにした。

オレには、その対局よりもプロ試験の方が数倍重要だからな。

プロ試験は、オレは外部からの受験となるので、予選から受けなければならない。
ついでに、予選は来週だ。

研究会での先輩方は

「大河君なら受かる!!」

と太鼓判をおしてくれている。
非常に心強い。

一柳先生は

「大河君の実力なら合格は確実だろうが、プロ試験は長い。体調管理などしっかりと気をつけなさい。」

と毎日のように言って下さる。
有難い教えだ。

父さんは

「いやー……まさかこんなに早く大河がプロ試験を受けるなんてな。まぁ、一柳棋聖が才能あるっておっしゃって下さってたしな。あっ、プロになったら、塔矢名人のサインよろしく!」

などと言っていた……
父さん気が早えーし……
もしプロになれたとしても、同じプロとしてそんなミーハー心満載でサインもらえるかっつの!!

兄貴は

「へぇー。受けんの?んじゃ頑張れ。」

とだけしかコメントくれなかった……
受かるとはこれっぽっちも思っていないようだ。

進藤には受けるということは伝えたが、あまり分かってはいなさそうだった。
まぁ、子供がプロになるなんて思ってもいないだろうからしかたないっちゃ仕方ねぇが。

そんなことをベットの中でゴロゴロとしながら考えていると、ふと腹が減ったと思った。
リビングに行ってみると、ラップがかけてあるご飯が置いてある。
横には
温めてから食べろ。
って書いてあるメモが置いてあった。

オレはそのご飯をレンジで温め、食べることにした。
その時、ふとパソコンが目に入った。

「久しぶりにネット碁でもするか……研究会まで時間あるし。」

オレは、パソコンの電源を入れてからご飯をレンジで温め始めた。
オレの家のパソコンは立ち上がるのに時間がかかるから温めおわったころに立ち上がるだろう。
そんで、食べながらネット碁するか!

数分経って、ご飯が温まり終わった。
パソコンを見てみると、ちょうど良い感じに立ち上がっている。

オレは、いつもおなじみにのワールド囲碁ネットにアクセスする。
ハンドルネームはいつも通り“river”だ。

対局者リストを眺めていると、あるハンドルネームに目が止まった。

「“sai”?」

saiって佐為か?
まさかな………

そう思いつつもつい期待してしまうオレ。
ちょうど対局中だったので、その対局を覗いてみると

「え!?これってどう見ても佐為じゃねーか!?どうしてネット碁に?いや、ネット碁だからこそか……」

その対局の内容はどう見ても佐為が打ったものだった。
対局は終盤を迎えている。

「この対局が終わったら即対局を申し込む!最近、進藤と会えてねーから、佐為と全く打ててねぇんだよなぁ……この数週間でどんだけオレが実力をつけたか見せてやる!!」

そう考えると凄く凄く対局が待ち遠しくなった……

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