あぁ、懐かしの友よ

□12 懐かしの「夢」7
1ページ/1ページ

春………………
それは、別れと出会いの時期……………

そして今日、オレはその例に漏れず、この小学校を卒業し、6年間ずっと一緒に成長して来た友達と別の道を歩むことになる。

進藤に、オレが海王に進学すると知られてからは、オレ達は、毎日のように遊んだ。
もちろん、日曜日は研究会に行くので、その日以外だが…………
碁を打つ時以外は、他のクラスメイトを誘って大人数で、遊んだりもした。

そうやって毎日忙しく、そして楽しく過ごしていると、卒業式の日はあっという間に近づいて来た。

「只今より、第××回卒業証書授与式を開始する。一同、礼!!」

先生の言葉に全員が合わせ、礼をする。
それから、校長の話、来賓挨拶、卒業証書授与、在校生送辞が続いた。
そして……………

「卒業生答辞。卒業生代表 加賀 大河!!」

「はい!!」

…………実はオレ、卒業生代表でした!
この学校から一人、海王に進学するので、最後の思い出にと皆が気を回してくれたからであろう………
はっきり言って、こんな堅苦しいことは苦手だが、選ばれたからには、この答辞をまっとうしよう。

オレは、真っ直ぐ前を向き、堂々と歩くことに心がけながら、登壇する。
そして、在校生、卒業生、保護者、先生方の方を向く。

「答辞。
日一日と暖かく、春の息吹を感じる今日此頃となりました。
この春の陽の中、僕たち卒業生×××名は、今新たなる人生に向かって大きく飛び立とうとしています。
本日は、僕たち卒業生の為にこのような素晴らしい式をおこなってくださり本当にありがとうございます。

初めての学校生活に、期待と不安を抱きながら臨んだ入学式。
迎えてくださった六年生の先輩方がとても大人に見えました。
その時は、まだ慣れていなかった学校生活もすっかり慣れ、気がつけば、大人に見えていた先輩方と同じ学年になっていました。

こんなにも歳月の流れが早く感じるのはきっと小学校での毎日が充実していたからだと思います。
思い起こせば様々な思い出が蘇ってきます。

様々な行事で
意見が合わなくてぶつかりあったり
練習を重ねて認め合ったり
勝敗で喜んだり悲しんだり
様々な場面を乗り越えてさらに僕たちの絆が深まりました。 

×××小学校には、他の学校にはない伝統がたくさんあります。
在校生の皆さんには、この伝統に誇りを持って、守っていってほしいと思います。
僕たちは、これからそれぞれ自分の進路に向けて新たなスタートをきります。
これから先には、様々な困難が待ち受けていると思いますが、
この×××小学校で得た様々なものを胸に、新たな一歩を踏み出していきたいと思います。
本日、僕たちの為に貴重なお時間の中、ご臨席を賜りました来賓の皆様、今日この日まで僕たちのことを支えてくだった先生方、在校生の皆さんありがとうございました。
お父さん、お母さん、家族のみなさん、今まで僕たちを暖かく見守ってくださり本当にありがとうございました。
時には、わがままを言って困らせたことがありましたが、誰よりも誰よりも頼りにしていました。
今は、言葉で言い尽くせないほど感謝しています。

最後になりますが、皆様の御健康と×××小学校のより一層の発展を願い、お別れの言葉とさせていただきます。

平成××年 三月××日。
卒業生代表 加賀 大河。」

本当に、色々あった…………
特に、進藤と仲良くなってからは………

初めて、オレは自分の秘密を明かした。
今まで、家族にすら言わなかった秘密を………

そのおかげか、加賀 大河として生まれてから一番楽しかった時期だったんだ。
たぶん、少し負い目に感じていたんだろう……
別にそんなつもりはなかったが、無意識に前世の記憶を持っていることに………
もしかしたら、誰かに明かしたかったのかもしれない………

進藤と佐為に出会って、仲良くなってからは、オレは自分の夢を持つことが出来た。
また、本気で碁をすることができるようになった。

そんなことを色々考えていると、なんだか涙がこみ上げて来た。
卒業生を見ると、中には、泣いている人もいる。
だがオレは、泣いているところなんて見られたくなかったから、必死で涙を抑えた。

オレは、壇上で一礼してから、自分の席に戻る。
後の卒業式の項目は、記念品贈呈ぐらいだ。

オレは、残りの卒業式をしっかり、味わった。















「海王に行っても、絶対、オレらのことを忘れんなよ!!」

「加賀君なら、絶対に魁皇でも上手くやっていけると思う!頑張ってね!!」

「オレ達、ずっと友達だぜ!!」

卒業式が終り校庭に出ると、クラスメイト達がオレにどんどん話しかけてくる。
このクラスのほとんどは、葉瀬中に行くので、こうなるのは、当たり前だ。
オレは、クラスメイトの言葉を心に焼き付け、別れの挨拶をしていく。

そして、最後に残ったのは、進藤だ………

「なぁ、進藤。」

「なんだよ?」

もう、この校庭には、オレ達しかいない。
卒業式が終わってから結構経つので、皆帰ってしまったからだ。

「オレさ、前世での親友は、色々あったけど、やっぱり、虎次郎だと思うんだ。」

「ふーん?」

進藤は、いったい何が言いたいんだ?
というような表情を浮かべている。

「だけどさ、今世での親友は、お前だと思うんだよ。」

オレがそう言った瞬間、進藤の顔は、真っ赤になった。

「な、な、な、何いきなり言い出すんだよ!?恥ずかしいじゃねーか!!」

「ははははっっ!!」

本っ当に、顔に出やすい奴。
こういう奴だから、一緒にいると楽しいんだ。
オレは、笑うのをやめてから進藤に言う。

「いや、さ。これからお前と違う学校に行くんだと思うと少し寂しくてな………」

「家、近けぇんだし、毎週遊べばいーじゃねーか?」

進藤が
何言ってんだよ、そんな当り前のこと。
と言う風に言う。

当り前のように、進藤が言ってくれていることが嬉しい。
今後、交友がなくなるのは、絶対に嫌だったから………

「そーだったな。オレ、毎週のように、お前ん家遊びに行くぜ!」

「あぁ、来いよ。待ってるぜ!あっでも、オレがお前ん家に行くかも。」

「それじゃ、入れ違いだ。」

オレ達は、一斉に笑い出す。

「なぁ、進藤、今から碁を打たねーか?」

オレが唐突にそう言うと、進藤は若干呆れ顔で、

「お前、こんな時にも碁かよ………まぁ、打つか!今日は負けねーぜ!!」

と言う。

「はぁ?お前の棋力じゃ、無理無理。百年は早いね。」

オレは、得意げに返す。
進藤は、悔しそうな顔をして、

「絶対いつか、追いついてやる!!首を洗って待ってろ!!」

オレは、驚きの表情を浮かべた。
進藤は、不満げに

「何だよ、その顔は!?」

と言って来た。

「いや、……………進藤が“首を洗って待ってろ!!”なんて、難しい言葉を使うから、驚いちゃって……………」

「お・ま・え・なーーーーー!!」

進藤の顔が怒りで満ちる。
オレは、そんな進藤から走って逃げる。

進藤は、その怒りの表情を浮かべたまま、オレを追いかけてくる。

そのままオレ達は、オレの家へと走り出した。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ